教室を出たところで、大楠に会った。
ひとりなのが気になったが、まぁいいか。
並んで歩いていると、今度は高宮を拾った。
まーたなんか食ってるよ。「なに食ってんだお前」と大楠が尋ねているが、食っているもんにまでは興味ないね、オレは。 ふたりの会話は俺の右耳から左耳・・いや、オレの耳は左が利き耳だったっけ。その場合左からになんのかな。
「花道は?」
高宮のセリフにオレの利き耳が反応した。
「部活だろ。いい加減慣れろ」
靴を履きながら突っ込む大楠の、その言い方はあれだけど、どちらかといえばこの顔は高宮に同調している顔だ。
「なーんだーかなー」
分かる。 高宮のぼやきをオレも心の中で一緒に唱える。
確かに「なんだかなー」だ。
花道がバスケ部に入って3週間が過ぎた。
花道がバスケに打ち込むのはむろんおれらも応援する。
しかし花道の不在を寂しく思うのもまた事実で。
いつもつるんでいたやつがいなくなるってのは正直なとこかなりつまんねえよ。
だからかなぁ、最近のオレらはどうにも調子が出ない。
ザ・マイペースの高宮もさすがにちょっと様子がおかしい。
「じゃあ洋平は?」
「あいつはなぁーコレだ、コレ」
大楠が見せるは、立てた小指だ。
そういうところオマエ、オヤジさんにそっくりだ。
「またかよ。洋平はどうなってんだ。」
「花道の50人てあれ、洋平にふられた女たちの呪いなんじゃねえんか」
オレがそういうと、「ちげえねえ」とふたりが大きく頷いた。
じゃ、ま、そういうことで。
高宮が靴を履き終えたことを視界の端で確認し、そしてオレらは帰路につく。
特にあわせているわけでもないのに同じ歩調で歩くようになったのはいつからだったかねぇ。
ガキの頃からつるんできたおれら3人は、なんと高校まで一緒になった。
オヤジもお袋も感激したよなあ、オレが湘北行くって決まった時は。
最近たまに、中学ん時にあのふたりに会っていなかったらどうなってたんかなと思うことがある。
果たしてオレらはここまで一緒にいたんかなと思う。
まあ、思うだけだけど。
あ、いますれ違ったやつには見覚えがある。
「いまの中学の時のやつだよな」
「みてなかった」
「のどがかわいた」
これだもんな。
いまいち、まとまりがないというか緊張感に欠けるというか。
3人の視線はてんでバラバラなまま、歩くという意識もなくただ足を動かす。
「バスケはじめたしよお、花道の記録止まったまんまだよな」
高宮がまたぼやく。
「晴子ちゃんはどう思うよ」
「晴子ちゃんと花道って組み合わせは・・ねえだろー。あんな似た者同士でどうしようっつうの。」
無言の延長線上にあるような会話をして、口を閉じる。その繰り返しだ。
なんか最近こんなのばっかりだ。
お、そういえば。
「オレ49番目の子この前見たよ。男と連れ立って歩いててよぉ。そいつみてよ、そりゃ花道のことタイプじゃねえだろって思った。」
「49番目ってどんな子だ。」
女の話は大楠が食いつく。
「あいつにしては珍しく、髪がくりくりしてた子だよ」
「あー・・覚えてねえなぁ。その前の前くらいはわりと好きだった」
「おれはちょっとなー・・はなみちとは趣味あわねえなーっと」
そう言って、高宮が自販機に金を入れる。
「そんなところに自販機なんかあったんか。」
「注意力の差だな」
にやりと笑って高宮が言うが、俺は興味の問題だと思う。
高宮に金を入れられた自販機が、ちょっとびっくりするようなでかい電子音を立てた。 まんまと驚かされたらしい大楠が「うるせっ!」と自販機をどつく。
おまえもうちょっと意味のあることしろよ。
「ポーカリっ」とボタンを押す高宮に、大楠が「それポカリじゃねえし」とぽつっと言うが、 たぶん高宮は分かって言ってて、それすらも分かって大楠は反応する。そしてそういうのを分かっちゃっているオレ。
オレらはもう互いが互いを知りすぎている。
そしてそれは・・いいことか。
とくに考えるようなことじゃねえ。
しかし高宮がスポーツドリンクを選ぶようになるとはなぁ。
「花道の影響うけまくりだな」と、オレが途中まで言いかけたとき、自販機が先ほどよりもさらに大きな音をだした。
「な・・んだこれ」
「おめえがどついたりすっからキレたんじゃねえの?」
「ンなわけあるか。おい高宮、早く何とかしろ、うるさくてかなわねえ」
「あーんだよー」
高宮が取り出し口からボトルを取り出している途中に音はやんだ。やんだが、かわりに自販機は妙な沈黙をもった。 そこらへんの音よりも意味を持った、そんな沈黙だ。
「なに」
「なぁ・・ボタン赤いまんまだぜ?これさーまさかの大当たり?」
「うっそ!」いっせいに自販機を見つめる。
自販機は相変わらず黙ったままだが同じ調子を刻んでずっとチカチカ光っている。 これは明らかにこちらの出方をうかがっている様子だ。そう見て間違いない。
「おいおいはじめてみたぞ、ジュースが当たる瞬間て。高宮早くしろよ、時間制限とかありそうな感じだぜ、雰囲気的に!」
「そしたら雄二、お前にやる。選べ!」
「オレぇ!?そ、そしたらオレも花道ドリンクにするしっ!」
大楠が押すと、ガコンといって本当にジュースは出てきた。
かがんで花道ドリンクを取り出しながら、信じられないといった顔でオレらを見てくる。
おれらだって・・。
そこへまた同じような音が鳴り、再度ぎょっとして自販機を見る。
迫力の沈黙を備えた赤いままのボタンの自販機。
さっきと全く同じ展開だ。
「またか!どーなってんだ!!!」
「すげえって、すげえって!チュウ、いけチュウ!いけ!いけいけ!」
「だ・・だったらやっぱりオレもはなみちドリンク!」
勢いとは逆に恐る恐るボタンを押すと、ガコンとジュースが落ちる音がする。
三度出てきたジュースにオレらのテンションは最高に上がった。
ウオオオオー!と大騒ぎするオレらの後ろから「えらい盛り上がってんなぁ」と声がして、振り向けばちょっと離れたところに洋平がてろっと立っていた。
「ヨウヘー!!」
「もうちょっとしゃんと立て!!」
「聞けよ!コイツ、高宮、ジュース、大当たりして!3本だぜ!すげえよなんだよこれ」
てろてろと寄ってきた洋平を囲むようにして、オレらはてんでに報告する。大騒ぎのオレたちに、洋平は眉を少しあげて「ふーん」と言って、それからひょいっと背伸びをした。
その視線はオレらを越えて自販機に注がれた。
「当たりって釣り銭までくれるわけ?」
そのひとことでオレらの口と動きがぴたっと止まり。
高宮がポケットをまさぐり、「あ、500円」と言って。
洋平が「プハッ」と吹き出した。
やはり、全体的に調子が悪いオレたちだった。
桜木軍団のそれぞれって日常をもてあましている人たちだと思う。
花道がいないとなにがつまんないって、トラブルを持ってきてくれないことだろうとおもう。
どうでもいいけど、書いている間中、
かにっ食べいこぉーってのがアタマからはなれなんだ。
2008/05/??