朝っぱらからうるせえなあと廊下を歩いていたら、目に入ってきた納得の光景。
やかましくて色とりどりの目立つ集団、桜木軍団が階段陣取って談笑中だ。 桜木はいねえけど。
なーにが軍団だ。やってることは、笑ってばっかじゃねえか、おまえら。
どーでもいいけど、そこ3年が通るんだぞ?
気にならねえにもほどがある。よくもまぁここまで似たモンばっかが集まったよ。
「おーミッチー」
ちっ、ミッチーが定着してやがる。こいつら、おれのことを仲間のひとりとでも思ってやがるんじゃねーか?
からかうようにミッチーミッチーと声をかけてくる中で、今日は一人、やたら静かなのがいた。
水戸だ。
桜木の懐刀の・・と言ってたのはありゃ誰だったけか、宮城だったか?うまいことをいうと思ったが、 桜木にンなモンいるかよと気付いてそのあと笑ったな。ああ、やっぱ宮城だったな。
まったく口を開かない。
こんな顔をするんだな。
これこそこいつの顔なんか。
虚弱体質なんて書かれたふざけたシャツを着ているくせして、何も見ない目でぼんやり廊下を眺めている。
コイツの目は、まるで湖だ。
穏やかで、波がない。
だからといって安心しちゃならない。
思いもかけず深く、危険だ。
こいつは、そういう目をしてやがる。
「洋平、またやってるぞ」
一瞬、タバコをすった・・ように見えた。
タバコなんかもってねーのに。
「完全に癖になってるな」
「いー加減なくなりそうなもんだがなぁ」
おれの視線に答えて「禁煙中。」ヒゲのヤツがそういった。
アイツのためか。
続けざま、水戸はタバコを持ったかのように見えたその手をひらっと俺に振って来た。
嫉妬した。
そこまでやってもらえんのか、アイツは。
ここまで思ってもらえるんか。
オレはこんなに誰かに思われたことはない。
ちがう。
こんなやつがいねえんだ。
こんなにも自分をなくせるヤツに出会ったことがないんだ。
「その歳ですでに禁煙中か?なめてんな。理由はなんだ、言ってみろ。彼女が嫌がるってか?」
イヤミだ。
チラッと一瞥くれた水戸は、
「おれ、キョジャクタイシツなんですよ」
シャツをさしてそういった。
オレの心のヒダヒダまでもを見透した完璧な答えだった。
そばにいた太いのをぺちっと叩いて、その場を後にし、階段を登る。
あれが欲しい。
好きって言うのとはちょっと違う。
人のもっているモンが欲しくなる、感じです。
2007/11/09