家賃にあてようと思って、遣うなと言っておいた金が遣われていた。
何度目だろう。
言ってやりたいことがないわけじゃないんだが言葉が出ない。
それ以前に怒りが、感情がわかない。
前はもっといろんなことに対して腹を立てていたはずだ。その分、笑いも多かった。
これはあきらめか。
この人には何を言っても無駄なんだという、そういうあきらめなんだろうか。
ちがう。
もっと根本的な何かが、何かが。
最近ガタが来てンのかなあとよく思う。
町を歩いていても、バイトをしていても、学校にいても、あいつらといても。
何かすべてが白々しく思える時がある。
達観とは違う。
なにかがない。
欠けているんだ。
いや、足りないのか。
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三井さんがさっきからずーっと喋っている。
喋る端から、花道や高宮に突っ込まれているが、倍の量の言葉を返して、それでまた突っ込まれる。
終わりが見えない。
三井さんは明るい。この人の明るさは、考えている明るさだなと思う。
笑われているのではなく笑わせているのだなとよく思う。
頭のいい人だ。それから勘も。
だから俺は結構苦手だったりする。
また笑った。
あのよく動く口の中から入っていって、あの人のあたまとあたまの中にあるこころを一度覗いてみたいね。
何色なんだろうなぁ。
マーブルのような、そんなんじゃねえのかな。
「洋平はどう思う?」
いきなり話題を振られて。
聞いていなかったので、素直に俺は「わりい」と言った。言ったのに
「お前なにさっきからすかした顔してんだ。ちゃんと人の話を聞けよ」
そんなことを三井さんが言ってくるもんだから。
「くだらないんだもん」
思わず言ってしまった。
言った瞬間、激しい後悔が襲った。
言ってもしかたのないことを言ってしまった。
くだらないのはオレだ。
「よーへー、いま、おまえなんつった」
えっ、と花道を見れば、オレが言ったんじゃないと首を振る。
「オレだよオレ。よーへーくん!」
三井さんだった。花道の口真似をしている。なんだよそれ。
「いまオマエはオレを、くだらねえといったな」
言いました。
「すんません」
「そんで言ったことを今、オマエは激しく後悔しているな。」
しています。
「しかもその後悔はお前あれだ。失礼なことを言って申し訳ないというオレへの詫びの気持ちなんか微塵もなくて、なんかもっと自分に対するあれだ、なんだ・・・・・ガッカリ・・みたいなやつだ。」
不意打ちだ。
言葉が出ない。
「失望くらい言えねえのかよミッチー。しかし・・まあ語彙はともかくとして」
「よく分かったなーミッチー」
「当たり前よ。何年、三井寿をやってると思ってんだオメエら。」
「だからこそ言ってるんだけど」
「やかましいわい」
お前らずいぶんと知った顔して好き勝手言ってくれんのな。
「おまえな・・水戸。おまえもうちょっと、そういうの言え。お前が言ってもしょうがないと思っていることにはもっと言ってもいいことがあるんだぞ。いや、義務だ。言うべきことがいっぱいあるんだ。言わなきゃわからねえんだぞ。」
「アンタがばかだって思うたびに言うの?」
オレがそう言うと連中が手をうってげらげらと笑った。
「・・チッ、実際イラつくよなあ、お前らは。でも、そうだ。お前の場合、それは言ってもいいことでもある。もっと言え。」
「やだよ。オレは言わない」
「その調子だ。もっと言え。しょーもないこと言えよ。お前さ、人のためになんかすんのが好きだろ」
「三井さん、うるさい。」
「まあ聞けって。人のためになんかするのが好きなオマエに大義を与えてやる。 お前が思ったちょっとくだらないことを言うだけで、 喜ぶやつはわりといるんだぞ。」
「うるさいって」
なんなんだいったい。
いらつきがおさまらない。
「勝手に見切りをつけんな。」
「黙れよ」
花道が息をのんだのが目の端に映り、場が静まり返った。
三井サンだけは立ち上がった俺を、のんきな顔して見上げてきて「あらま。」という。
たまらず背を向ける。
右手が疼く。
なんなんだ。
アンタいったいなんなんだよ。
「世の中、捨てたもんじゃないんだぞー」
後ろから聞こえてくる。
そんなの言われなくても知っている。
アンタなんかに言われなくたって知っているのに。
じゃあなんで。
なんでこんなに胸に迫るんだ。
色々と説明のない部分があって、いつも以上に読みづらいかなあと思うんです。
ううう。
洋平についてゆっくり探っていくお話が書きたくて書いてみたんですけれども・・
書いていいのかなーと迷って、長い間ぼーっとしてました。
久々に読み返してみて、やっぱり続きを(自分が)読みたいないなあ・・と。
実際に続きを書くかどうかは、っていうか、書けるかどうかはこれをアップしたらわかるかなと思って。
明日に丸投げしてようやっとアップできました。
ほー・・・
2010/08/07