「ぅおーい、まてまて。いやー・・あまりに不憫だったんでついつい追いかけてきちまったよ。苦労性なんだ、こう見えて。なはは」
聞かれてもないのに、ついついペラペラとしゃべっちまう。無口・無表情なやつを前にすると、そうなるもんだよ。
おぉぉ、隣に並ぶとやっぱ流川もでけえなあ。
「悪く思わねーでくれな。花道のヤツ・・と高宮、気が利かなくてすまねえな。」
「別にあんたに謝ってもらわなくてもイイ。」
「ま、そーなんだけどよー」
それから、流川と並んで歩く。
いやー、本当に無口なやっちゃ。
あのおしゃべりな花道が、こんな静かなヤツ相手にいつもなに話してんだろうなあ・・などとぼんやり考えていたら
「みてく?」
突然、流川が口を開いた。
「なに?」
「のら。見てく?」
「い?」
あー例のネコ――――――って!
「ガキの頃の話だったんじゃねーの?」
「今もたまにみてるケド」
「いきてんの?」
「歳とったけどな。あっちにいる。みる?」
自分にいろいろ似てるというネコだ。そりゃちょっとは気になるだろう。それにこのオトコが自ら見せようと言ってくれてるんだ。興味もわく。 そのまま流川についていった先はなんていうのか、さびれたとこだった。草はぼうぼうで伸び放題、雨水にあたったのだろう倍の厚さに膨れ上がった雑誌や、ラベルのはがれた缶やら瓶やら、何だったのか分からないものが転がっていて、とてもきれいなところとはいえなかった―――が、ネコがたくさんいた。 流川がなぜこんなところを知っているのかということがちょっとだけ気になった。
「あいつだ、のら。」
おお本当にいやがった。
想像通り個性的なツラした猫だ。
か――――ッ!オレはコイツに似てんのかい。
「よお」
人間には無愛想なくせに。猫にはきっちり挨拶しやがった。やっぱ変わってるわ。
「いつからみてんの?」
「―――しょーがくせいんとき。」
「ずっとみてんの?」
「気が向いたらな。」
気が向いたらって、小学生の頃からだと軽く三年はたってるよな。どっひゃ――――気が長いというか、なんというか、よくあきねえなぁ。
「あんた意外に情が深いんだな」
「カオニニアワズ」
「い?!」
こころの中で思ったことばを言われてドキッとした。
「どあほうがよく言う。」
そうか。花道もそう言うかぁ。
小学生の頃からここに通ってはネコに挨拶する流川を想像して、なんともいえない気持ちになる。
顔に似合わず、情が深い。
花道が流川に惚れた理由を垣間見た気がした。
じゃあ、流川が花道に惹かれる理由は?
「昼と―――」
「え?」
「昼と夜のさかい目。」
「?」
「あれ」
流川が指差す先をみたら、そこには、今まで気付かなかった夕焼けがあった。
思わず固まる。
それくらいきれいだったんだ。
なんで今まで気付かなかったのか。
オレンジとピンクと紫が街の向こうに消えていく。
頭上をあおぎ見れば、もう黒がきていた。
小さな白の点々は―――あれは星だな。
流川のいうとおり、たしかに、昼と夜の境目がそこにあった。
「流川も空なんてみるんだなあ。」
意外だった。
「と、どあほうが言っていた。」
どあほう
「さくらぎが、さかい目、って言っていた。」
「ははは。なるほどなあいつらしいや。」
「―――ハナミチも見た?のら」
「ああ。にてねーッつってた。チュウの方がカワイーだろーとかなんとかいってた。」
じぃぃん。ハナミチ―――、やっぱオレ、お前のこと大好きだわ。
「ハナミチ、おれらんことよく話すの?」
すると、むッとした顔になり、
「ぜんぜん。」
などとという。
話してるんだな。しかもかなりの頻度とみたぞ。
流川、嘘がつけねぇタイプだな。
流川よ。
悪く思わねえでくれな。おれたちは、桜木軍団で、ケンカがめっぽう強くて、仲間思いで、やるときはやる、しかしどんなときでもユーモアは忘れねえ最高の軍団なんだ。花道がそうなるのも無理ねぇんだよ。 しかし、今日はのらを見せてくれたお礼にひとつ教えておいてやる。
「ハナミチはルカワのこと、ちっともはなさねえよ。」
「フン」
「―――あいつは昔から、いちばん大事なものは、誰にも見られないようにしまいこんじゃうヤツなんだよ。」
ハナミチは五十人にふられ続けても、恋することをやめなかった。
すわ五十一人目かというところで、流川楓に出会った。
諦めなかった花道には、こんなごほうびが待っていたんだ。
神さまも粋なことしてくれるよな。
最初は女子に騒がれて、いけすかねえヤローだと思っていたが、いまは、好きだよ。
流川。
こいつは、とびきりだ。
とびきりサイコーのにんげんだ。