夜とコーラとオトコトオトコト

練習が終わってリョーチンたちとラーメン屋に寄った。
そのあと、うまかったなぁ、しかし寒いなぁ、ああさむい、さぶいさぶいと言いながら、そのままうちになだれこんだ。

「こたつじゃねーかぁぁぁ!」

大喜びといった態で、ミッチーが叫びながら肩までずずーっと入りこむ。キツネはちゃっかりいつもの定位置をとって しれっとこたつのスイッチをいれている。

「ミッチー、こたつマナー違反だ。」

ストーブつけながら、注意してやった。
うちのこたつは、大楠たちが買ったもんで(じぶんたちのために、だ)、わりとでかいサイズではあるものの、 ミッチーみたいな入りかたしてたら、絶対に誰かがはみ出てしまう。 肩まで入って全然こたつから出ようとしないミッチーの両脇に手をつっこんで引っ張り出すと、 さしたる抵抗もせず、されれるがままに「あーれー」とか言ってる。まったくもってふざけた年上だ。

「なぁなぁ、話しようぜ。おい、桜木!さっき買ってきたコーラ出せ、コーラ!」
「・・・ったくよぉ、自分でもてよなぁ。おらよ。」

「はなみちー、ごめん・・。オレ、なんかあったかいのがのみたい。からだの芯から冷え切っててよぉ。」
「えーーーーりょーちんまじかよーー。しょーがねーなあ。あったかい牛乳でいいか?」
「いい!いい!わりーな!」
「ミッチーは?」
「あー、オレはいいわ。それより早く作ってもどって来いよ。話をするぞ、話を」
「キツネ」
「・・のむ。」
ねこ舌のくせに。

話をするから早くしろと急かすミッチーの声をさえぎるようにガラス戸を締めて台所に足を踏み入れれば、 うううう、さすがにここは、さむいなぁ・・。 はなしはなしってなんなんだいったい。 がちがち震えながら牛乳あっためて、マグカップにあったかい牛乳いれて戻ってきたら、

「遅い!」

とミッチーに言われた。
なんか、顔赤くねーか?

「おせー、おせーぞ桜木!」
「ほい、リョーチン。・・なぁ・・なんなんだこのミッチーは。酔ってんのか?」
「サンキュー!・・この人、夜とコーラでこうなれるんだよ。」
「まじかよ・・」
「なーにをこそこそ話してんだそこ。桜木、はやく座れ。」

そう言いながら、バフバフと隣りを叩く。

「・・・んだよー。ほれキツネのだ。これ、まだあちーかんな。」
「・・ん」
「早く来い!」
「うっせーよミッチー!ご近所さんに迷惑だろうが!!」

隣に座ってやれば、にやりと笑って、

「じゃぁ、話せ」

という。なにをだ?

「おめーの話だよ。」
「だからなんだよ。」
「50人にふられた話だよ!」
「んなっ!!話すかバカミッチー!な?りょーちん!!な?な?」

向かいに座っているリョーチンに同意を求めれれば、

「ああ!そうだ!!話す必要はまったくねーぞ花道!三井サン、サイテー!!!」

リョーチンにはオレの心が分かる。さすがだ。

「んだとー!!!!おれはっ!さくらぎの!明るい将来設計のために!」

カンペキ酔ってんな。
余計なお世話だっつうんの。オレの将来は十分明るいっつうの。
リョーチンがオレのかわりに「サイテー」「悪趣味ー」とか言ってる合間に「ソウダ」「サイテッ」などと野次を飛ばしていると、 マグカップをじっと見つめて固まっているキツネの様子が目についた。

「おめーもう飲んでもいーだろーが、冷めるぞ?」
「のみたくなくなった」
「ああ?!」

作らせといてなんだ!カッチーンと来たが、ご近所さんに迷惑なんで、夜の喧嘩は控える。

「ねる」

そう言ってキツネが横になる。じゃぁ、なんか上にかけるもんを・・と探し始めたら、 リョーチンと言いあっていたはずのミッチーが突然、俺の腕をつかんで、

「腹が減った。」

と、言ってきた。
さっきよりも顔が赤い。
いったい、なんなんだ。コーラってミッチーのからだの中でどうなってんだ?

「腹減った・・って、さっきラーメン食ってたじゃねーか」

チャーハンも餃子も食ってたじゃねーか・・。
俺と一緒にリョーチンの分までもらってたじゃねーか。

「腹が減った。なんか作ってくれ。なんか作ってくれ。」
「三井サン、花道困ってるじゃんか。わがまま言うなって。」
「腹が減ったんだーーーー」
「だめ、この人、いまカンペキお子様モード。どうにもならない。」

ミッチーにいちばん慣れているはずのリョーチンがそういうくらいだ。多分、本当にどうにもならんのだろう。

「んだよーもー。」
「オレに、最高のつまみを作ってくれ桜木!」

コーラに合うつまみってどんなだよと思いながら、またもや席をはずす。後ろで「おれ花道と結婚してー」「おれもー」などと言ってやがる。ガラガラピッシャン! 勢いつけて戸を締めてやる! こちらは全力でお断りだぞ、凸凹コンビめ。 まったくもって家の主というのはつらい。こういう時でも笑顔で客をもてなさなければならないからな。でも次回から、絶対ミッチーにはコーラは買わせねぇ。

冷蔵庫をあければ、ハムが目についた。タマゴもある。うーむ・・ ハムはキツネの好物だが、仕方あるまい。 ミッチーがクソうるせえからな。いためて・・・・・それから・・あとは・・と考えながら、 タマゴをといていたら、ガララと戸があき、いきなりキツネが現れた。

「・・便所か?」
「オレのにく。」

目ざとくハムが出ているの見つけて、キツネがそうのたまう。

「テメーには明日また買ってやっからがまんしろ」
「・・なにつくんの」
「あー?いためものかなぁー。おめー、あっち行ってろって。ここさみーだろーが」

そういってるのに、ぴったりと横にくっついて離れねぇ。
なんなんだ?

「オレの」

まだ言ってやがる。

「だから明日買ってやっからがまんしろって。2個買ってやっから。」

突然部屋の方からミッチーたちの爆発したみたいな大笑いが聞こえてきた。
「うるせーなー」と言いつつもオレの顔は少しほころぶ。
客人たちのゴキゲンは、主として嬉しいもんだ。

「・・・・オレの」

キツネがもう一度、だけど、今度は小さくつぶやいた。

ああ・・・・・そうか。

そうだったんか。

ようやくそこで、おれは、すべてをさとる。

このあと流川くんは花道にものすごく甘やかしてもらえる。