はしれ④

嬉しそうな顔だ。

オレが好きだから、オレといられて、嬉しそうな顔だ。
すごく嬉しいんだろうな。
オレのことを好きだと言ってくれる人が、嬉しいこと。
それが、こんなにもオレを嬉しくさせる。
ああ、よかった。

そうだ、おれは、ただ笑顔が見たかったんだ。

おれは、ずっと、こういう顔が見たかったんだ。

見ろ、ルカワ。
告白されたらな、こうやって、こうやって・・・・
・・・ルカワ
ルカワ。
流川流川流川・・・

ちょっと待て。

おれは、いま、なにをしている?

あいつの、流川の顔が、どんどんどんどん浮かんでくる。

寝起きの顔。
めったに拝めない笑った顔。
料理作ってやったときの嬉しそうな顔。
意地悪言った時に見せるいじけた顔。
甘える顔。
オニのように怒った顔。
生意気言いやがるときの顔。
優しくしてくれるときの顔。
それから、好きだって言ってくれるときの照れた顔。
全部オレだけに向けられた、おれだけのルカワの顔だ。

ルカワが好きだって言ってくれるときなんてめったにねーけど、ああ・・・
ああ、でも確かに、ルカワは、好きだと言ってくれてたじゃねぇか。

言葉と、音のない言葉で、あいつはいつもずっとずっとおれに、好きだと言ってくれてたじゃねぇか。
おれはもうずいぶんなげえ間、あいつがいてくれて、ずっと幸せだったじゃねぇか。

流川。

おめー、どんな気持ちだったんだろう。
おれが、お前のこと怒ったとき。
おれが、話しかけなかったこの数日間。
おれが、呼びとめられたとき。
いま、こうしておれが、お前じゃねーヤツといる、この間。

なんで、オレはルカワといねぇんだ。
こんなところでいったいなにをやってるんだ。
お前じゃない、いったいおれは誰に優しくして・・ああ・・・そうか、そうなんだな。

オレはなんていうおおばかだ。
日本一のおおばかだ。

「さくらぎくん?!」

なんにも耳にはいらねぇや。
おれの優しさなんてこんなちゅーとハンパなモンだったんだな。

流川、流川、流川、流川流川流川・・・・・・
オレは、たまらなくなって、駆け出した。
ただもうルカワのことだけ考えて、あいつの家に向かって走った。

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