「桜木くん」
居残りを終えて、体育館を出たところで、声をかけられた。
知らないひとだった。
1年生じゃなさそうだ。
ミッチーとリョーチンが冷やかすような視線をよこしながら、わきを「おさきー」といって通り過ぎてった。
そのあとにルカワも続いたが、チラッと一瞥くれやがっただけで、相変わらず言葉は、ない。
「こんな遅くに、家は大丈夫ですか。」
「え?あ・・やだな、そんなに遅くないよ」
「あっと、そう、そうですよね・・・・・・えっと、なんでしょうか。」
「うん、あのね・・」
自分でも分かる。
顔がすげぇ赤くなってると思う。
しどろもどろの自分がかっこ悪い。
こういうときでも動じないルカワの顔が浮かんできて、妙な対抗心が沸き起こった。
対抗心?
いったい、おれはどうしちまったんだろう。
「ありゃ告白だよね、三井サン。」
「いやー・・・ついにあいつにも来たなぁ。生意気になぁ。ありゃ何年だ?」
「にねんっすよ。彩ちゃん、知ってるんじゃないかなぁ~?」
ドアの外まで聞こえてるぞ、凸凹コンビめ。
ガチャリ。
「「おっ」」
「はなみちぃ!あれか?いわれたんか?」
「・・んだよ、リョーチン。やぶからぼーに。」
「うわー・・こいつ、顔まっかっかだ。どっちが言ったんだかなぁ。情けねぇ。」
「うっせえよ。どうせ慣れてねーよ。」
「で?どうすんの?」
「いや・・そりゃその・・断ったけどよぉ。」
ルカワが気になる。
背中しか向けてこないルカワが、気になる。
「あんだぁ?!てめー、ばかか、桜木。けっこーイーオンナだったじゃねぇか。 大体てめーが、そんな選べるような立場にあると思ってるのか!!」
「うっせーな、ミッチーは!!」
「・・・・まーな、とか言ってもな。それが、お前らしくていいんだけどな。」
ミッチーが、なにやら兄貴ヅラして言ってくる。
あんだよぉ、その優しい顔は。
「んだよ。オレらしいって。うーーーミッチーのばかっ!」
「お?なんだなんだ?どうしたぁ?」
オレの頭をぽんぽんとやってくる。
ミッチーわかんのか。
今のオレの気持ちがわかんのか。
ミッチーの肩に顎をのっけて、うーうー言ってるオレのそばを、キツネが通り過ぎた。
「おさきっス。」
「おいおいちと待てルカワ。みんなで帰ろうぜ。」
「そうだよ、待ちな。一緒に帰ることによってな、絆を深め合うんだ。キャプテン命令だ。」
相変わらず、キツネはこっちをみねぇ。
なんなんだよ、いったい。
長いこと話してねえからわからねえ。
一緒にいねえからわからねえ。
こいついまなに考えてんだ。
「いやー・・・しかし、花道くん。初ですか。」
「もういーだろー、その話はよぉ。」
「桜木、記念に、おれがおごってやろうじゃねーか。」
「三井サン、それなに祝い。」
そう言ってまだしつこくオレで楽しんでるふたりの横で、相変わらずキツネは無言だ。
何か言いたげでもあるようなそうでもないような・・・
「あ、おい、花道、あれ・・。」
「あ?」
りょーちんが指差す先を見たとたん、あたまン中が真っ白になった。
さっきのひとだった。
肩震わして、泣いてる。
泣いてる。
おれが 泣かした。
「送ってくる。」
「あぁ?!」
「・・・夜だし、あぶねーし。おれ、送ってくる。」
「おい花道!」
ルカワの顔は見れなかった。
というよりも、オレはそのとき完全に、ルカワのことがあたまになかったんだ。
おれが泣かしたその人のことで、オレのあたまはもういっぱいになっていたんだ。