救世主・オレサマ

合宿に来ている。
合宿においても、この天才、早朝特訓はおこたらねー。
まさに天才の鑑。

そんなカガミなオレ様が天才的秘密特訓から戻ってポカリを飲んでいるところを突然、背後から襲われた。

「あんだぁ?!」

振り返ってみると、必死の形相の3人が、オレ様の腰のあたりにまきついていた。

「ささささ桜木君!」

「あんだよ、テメーら、落ち着きねーなー」

「桜木君、なにも言わずになにも言わずに・・」

と言いながら、オレの腕を引っ張ってく。

なにも言わずに何なんだと思って、おとなしく引かれるままに付いていったら、1年部屋に着いた。
オレ様は、いちねんたちと一緒になんて寝てられねーからな(なんせ天才は常に特別扱いだ)、
リョーチンたち2年と同じ部屋だ。(いちねんに仲間はずれにされてるわけじゃねーぞ)。

「これ・・・」

おーおー、キツネがそりゃもう気持ちよさそうにぐっすり寝てやがるよ。
かわいーもんだな。

「キツネがどうした。」

「起こしてほしいんだよぉ。」

「あ?」

と言った途端、口々に訴え始めやがった。

ふむ、なるほど。
つまり、びびってんだな。
この寝起きの超悪いキツネを起こしてくれと、この天才桜木に泣きついてきたわけだな。

まー、こいつの寝起きの悪さは、今や、湘北高校の1年全員が知ってるってくらい有名な話だ。
寝ぼけて繰り出すコブシと意味不明な言葉を真似てるやつをこの前ろーかで見かけた。
あれおめーのことだぞ、と言ってもキツネは、へぇ・・って、どこ吹く風だ。
こいつは寝起きの自分を知らないらしい。
困ったやつだよなぁ。
それに、オレ様にはとうてい及ばないが、ルカワは結構、力があるからな。
たしかに、凡人にはちょっと太刀打ちできねーかもしれねー。
オレ様も、気を抜いてるところをこいつにやられるとさすがに、ちょっと息ができねー時があるからな。
起こすのを躊躇する気持ちもわからなくはねぇ。

まぁ、本当にサイテーだよこいつの寝起きは。

と、これまでのオレ様も思っていた。
だがな、実は、ちがうんだ。

「任せとけ」と言って、びびりまくってる連中を部屋から出して、キツネを見下ろす。

さあ、天才・桜木花道。

腕の見せ所だ。

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こいつがはじめてうちに泊まった日の朝。

起こそうかと思って、しかし、さて、どうしたもんかと考えていた。
こんなにも気持ちよさそうに寝てるのを見ると、起こすのがかわいそうだと思ったんだ。
しかし、朝練の時間が差し迫っている。
こいつの寝起きの悪さを思えば、そろそろ、起こすのを開始しなければならねぇ。

心を鬼にして「おい!」と蹴ろうと足をあげたんだが・・・・無理だった。
だって、こいつ本当に気持ちよさそうに寝てるんだ。
そこを、誰が、蹴ったり殴ったりできるよ。
オレはあんまり寝ることへの欲求が少ねーから、しらねーけど、眠いモンは眠いんだろ?寝かせてやりてえんだよ。 それに、おれは、こいつのことが・・その・・なんだ、好きなんだよな。だからよぉ、したくねぇんだよ、乱暴なことは。

だから、無駄と知りつつも、
「おい、キツネ?おきろ?」
と、優しくからだを揺らしてみたんだ。

そしたらだ!
冷水をかけても起きないであろうとウワサされるこの寝キツネが、「ん・・」って、反応したんだ!!

はやる気持ちを抑えてだな、さらに言い方を弱めてそれは優し~く

「ほら、ルカワ、起きろ。起きて、メシくわねーか?バスケしねーのか?」

ってもう一度聞いてみたんだ。声が震えてたかもしれねぇ。
そうしたらやっぱり「くう・・」って!
確かに返したんだ。

「おい、もしかしておれが誰かわかるのか?」

そのとたん、ぱちって目を開けて
「さくらぎ」って言ったんだ。

たまんねー。
なみだ、ちょっとでた。

そのあとは、うそみてーにすっきり起きて、着替えて顔洗って朝飯食ってさっぱりした顔して朝練だ。
寝ながら運転のチャリに轢かれ続けたあの日々がうそのように思えたな!
この日、オレ様は、ルカワを穏やかに起こすという技を習得したんだ。
名づけて北風と太陽作戦だ。
つまりな、おきねえやつは、起きたくなるようにすればいいんだよ。
オレ様は本当に天才かもしれねぇ。

とりあえず、バスケとルカワと飯、このキーワードは必須だ。
これはルカワ起こしの技を習得して以来の絶え間ない努力で判明した。

で、その後はニンイってやつだ。
日によって変える。
日本一になるんだろとか、アメリカ行きてえかとか(これは言ったあとオレがちとへこんだ)、とか聞くんだな。優しくな。
聞くたびに、なる、とか、行く、とかカタコトで返してくる。起きてるときと大差ねーな。
頭を使うようなこと聞きゃいいんだ要は。難しいのはいけねぇがな。
前に調子にのって、起きなきゃよーへー達と遊びにいっちまうぞ、と言ったことがあったんだが、 そんときは、ぱちっと目を開けたものの、みるみるうちに目に涙がたまってって、口がへの字になったので、 焦ったオレが、まぶたを撫でながら、聞き間違いだもう一度寝ろと言ったらホントに寝た。
寝起きは素の状態なのかもしれねえなぁ。やたら素直でおどろいちまう。
そん時はそのあと、全然起きなくて朝練に遅刻した。
二度とあのテのことは言うまいと思ったが、今思うにあれは起きてたな。いじけてたんだぜ、かわーいよなー。

おっといけねぇ。
で、今日は何にするかな。
時間がねーからなぁ。
とっておきをだすか。

「るかわぁ、オレが好きか?」
ぁ・・
「大好きか?」
どぁ・・
「オレもルカワが大好きだ」
ぱちり。
じっと見てくる。
「………」
「聞こえたか。」
「・・・・ちょーどあほー。」
「起きたか?」
「ん。」

「二度寝すんなよ」と言って、頭をひとなでしてから、外で見張りをしてくれているであろうあいつらをよびにいった。

天才の作戦は今日も成功だ。

起きないやつは起きたくなるように仕向ければいいんだ。
これを使えばルカワもいちころだ。
だがあいにくだが、この作戦は誰にも教える気はねえんだよ。

おはようからおやすみまでルカワの暮らしを見つめるのはこのオレ様だけで十分だからな。

楽しく書いた・・・。