救世主

「そろそろ起こさないと。」
「起こすの?おれたちが?」
「しかたないじゃないか。」

3人で、いろんな意味でとても自分たちと同じ年とは思えない男を見下ろす。
なんとも言えない表情で。
3人に見下ろされた男は、それは優雅に寝こけている。

「だって、すごいんだろ?」
「そんなにすごいの?」
「すごいなんてもんじゃないよ。『なんぴとたりとも・・』 って言ってさぁ、先生にまで襲いかかっていくんだよ。容赦ないんだから。ルカワ君も怖いけどさぁ、 そのときの先生のキレっぷりもすごくてさぁ・・オレ、もう、ぐひんってなったよ。」

1年10組の悲惨な様子を教えられて・・・改めて・・

「ーーーーーっ!!!」
「どうする?!」
「やだよぉおれやだよぉ!」
「もうっもうさぁ桜木君に言うしかないんじゃない?」
「言ってどうなるんだよ。」
「事態はややこしくなる一方じゃないのか?!」
「いやー・・だって、ボクたちはさぁ、やられるだけだけどさ。・・桜木君なら、やられてもやり返せるじゃない。」
「だから?」
「・・・ボクたちよりは精神的ダメージが少ないかな?・・って。」

情けなくてごめん。
提案者は小さくなって謝る。
けれども、ほかの二人だって似たり寄ったりだ。
そう、誰も、彼を、起こせやしない。
小さくなった提案者の肩にぽんと手を置き、そんなことないよと頭を振って、
「それでいこう。」
と優しく言った。

「あ?」

「お願いだよ桜木君。怖いんだよ。」
「正直に言うよ、すごく怖いんだよ。」
「僕たちの手には負えないんだ。」
(桜木くんは目覚めがよくて本当によかったなぁ・・)
3人は口々に言う。

「あんだよテメーら情けねーなぁ。一年坊主はこれだからよー・・」

(きみもだよ)というセリフは言わないのがお約束。

「・・・こんなキツネのどこが怖いんだ。ここを蹴っとけばいいんだよ」

と腹を足で指す。

「それができれば苦労はないよぉ~」

できないとは言ってもだめだよとは言わない3人であった。

「まー・・・いーけどよ・・。」
「その代わり。テメーらちょっと部屋の外出とけよ。」

「・・?」
「テメーら凡人は見るに耐えれないほどの戦闘シーンが繰り広げられるんだよ!」

ヒィッ!
「わかったよ」
「わかったけど桜木君。バスケはできるカラダでいてね。お互いに。」

「任せとけ。」

ほっ・・・

「・・・急所ははずしておく。」

ひぃ。
誰もこねーよう見張っとけよ、という桜木の声を背にして、わたわたと部屋から出てナムナム・・と念じながら、 言いつけどおり部屋の前で待つ。

「あ、いちねん。30分には集合だよ!」

わかってまーすと、にこやかに手を振る。

安さんっていいよな。
気さくだよね。
宮城さんもいいよ。けっこうやさしーんだよね。
っていうかさぁ、2年生はいーよねー・・・・
それを言うなって・・

5分後。

「もういいぞ。」

「え?」

「起きたぞ。」

「ずいぶん静かだったな。生きてるの?」

「急所ははずしておいた。」

ひと仕事終えて自分の部屋に戻っていく花道の後ろ姿にありがとう(天才!)と、ねぎらいの声をかけ、3人も自分たちの部屋に戻る。

あ、本当に起きてる。

「おお、おはようルカワ君。」
恐る恐る声をかける。
「・・・・」
ぼさぼさの頭を掻きながら、うなずく・・・ように見えた。
彼なりに挨拶を返している・・・・と信じたい。

おもむろに着替えだしたルカワを見て、二度寝の心配はないことに安堵し「それにしても」とひそひそと顔を寄せあう。

ぜんぜん、殴られたような跡がないよね。
どうやって起こしたのかな。
やっぱさぁ、目立たないとこを蹴ったのかな。
ルカワ君は、寝てたから蹴られたことに気づかないのかもね。
さすが、格闘技の天才。
っていうより、やんきーだからだ、っていう話もあるけど。
それカンケーあるの?
もうどっちだっていいよ。桜木君はやっぱり、救世主だよ。

・・・3人が、今日の日の真相を知るのは、もうしばらく先のことである。

すごくうきうきしながら書いたのでした。
次、「救世主・オレサマ」に続く。