俺の歌を聞け

明日の練習試合にそなえて、今日はいつもより早く練習が終わった。
居残りも少し早めに切り上げた。

体育館を出て部室に戻る途中、渡りろーかンとこで、どあほうが「俺の歌を聞け。新作ができたんだ」と言ってきた。
新作しかきーたことがねーがなと思ったが、練習終えたばっかで、なんか言うのもめんどーだったので、部室に戻る間、歌わせることにした。

「歌えよ」
「よし。アーアー・・コホン・・朝の~・・あれ?ちょっと音が違うな。イーマイナーで飛び出す感じなんだがな。」

なにがマイナーだ。
知りもしねー単語を知ったかぶって使いやがって。

「あさのー・・・たいよう~にも・・なんかおかしいな・・もっといい曲だったんだがな。あ、待てよちゃんときけよ。」
「きーてる」

さっさとしろ。

「朝のー太陽ーにもまけないーかがやき~・・桜木ー」

またテメー自身の歌かよとおもったが、今日はなんか疲れてっから好きにさせておく。

「夜空をー・・・流れる・・次がいいんだ・・いいか?聞けよ?」

と言ったところで部室に着いた。
部室に着くとまだ明るくて、入ってみると、三井先輩とか宮城先輩とかがいてなんか騒いでいた。

「オイ聞けよ、流川!俺の次のいいところ」
「きーてるからはやく歌え」

そうすると「うむあーあーコホン、朝のー」とさっきのをまたはじめからやりだした。どあほーが。さっさと最後まで歌えよ。

「だから手前っすよ!」
「ばか!ちび!奥だよ!」
「チビはかんけーないでしょ!?差し歯!」
「おまっ、誰のおかげで歯をさすはめになったと思ってんだよ!」
「あんたがそれを言うわけ!?」

うるせー・・と、思う。

「なあキツネ、聞いてんのかよ俺の歌。」

どあほうが顔を覗き込みながら聞いてくる。

「きーてる」

だから早くしまいまで歌えよ。

「あ、流川に聞こう。なあなあ、手前だよな!?」
「ばかやろう、奥だよな?流川!」
「なんのはな」
「夜空を流れる~・・幾千の星の~川~ー、聞いたか!?流川、いまんとこだ!」
「お前の歌はいま、いいんだよ!」

三井先輩に叫ばれてどあほうが「なっ!失敬な!」と叫びかえすが二人の年上の勢いでその抗議の声はかき消された。珍しいこともあるもんだ。 とにかく聞けとうるさいのでどあほうの歌を聞こうとすると、腕を引っ張られて「いいからおまえはこっちを聞けよ、流川。な、奥だろう?」と またしても三井先輩たちに付き合わされる。

「だからなんのはなしっすか」
「この雑誌だよ。な、この中でだれがいいかっつー話だよ」
くらだねー・・
「あ、そんな顔すんなよ、お前もてるんだろ?お前の一言ってすっごい大事な一票だよ。三井さんなんかの10倍は重い」

「夜空を流れるー幾千の星の~・・」後ろで桜木がまだ歌っているのが聞こえてくる。
そこはさっきも歌ったろうが。何べん同じとこ繰り返すんだどあほーめ。 そういってやりたいのに、目の前の二人がうるさすぎてしゃべれない。

「なんだよ俺だってあれだぜ?けっこー・・その・・もて」
「いかつい男ばっかにね。」
「お前なんか万年フられボーイだろーが!」
「おれだっていつかは!もーいー!なあ、流川どっちがいいと思う!?これ、見ろ!」
「どっちでも」
っていうかどーでもいー・・
「そんなんじゃだめだ!」
「ほら!」
「よく見ろ!」
「目を凝らせ!」
「お前はどれがいい!?」
「俺の歌を聞け!」

突如、桜木がばかでかい声で叫んだ。
耳がうわんうわんする。

「俺の、歌を、聞けぇー!」

更にもう一度桜木が吠えた。
それからそのまま両手で俺の肩を掴んできて、しっかりと向き合わされる。

「お前は、俺の、歌を、聞くんだ!」

といわれた。
そう言うどあほうの目は、ものすごい真剣な目だった。
しかしすぐになんかいじけたように唇を尖らせた。
なんでそんな顔すんだ、どあほーめ。
俺はちゃんときーてんのに。

朝の太陽にも負けない輝き桜木
夜空を流れる幾千の星の川

だろ?
わけがわかんねー歌だけど、ちゃんときーてるから。
だから。
とにかくテメーはさっさと歌え。

誰か曲をつけたってくれ。

2009/02/03