委員会が始まる前、オレは同じクラスの文化委員のペアの女子の人に英語の宿題について聞いていた。
英語なんてさっぱりわからんからやりたくないんだが、「さすがにそろそろ提出しておかねえとバスケができなくなるぞー」とよーへーにおどかされたのだ。
くわばらくわばら。
俺の前に座っている女子の人が動くたびに、甘いにおいがふんわりと漂ってくる。
シャンプーかな、それともころんとかいうやつかな。
わからないけどなんか花みてえなにおいだなぁ。
女子の人はみんな、晴子さんに似ているなあ。
可憐という言葉がぴったりで、なんだか守ってさし上げたくなる。
まあ・・・中には、彩子さんみたいな人もいるけど。
彩子さんて、なんであんな強いんだろうな。
英語そっちのけで、彩子さんと晴子さんの違いを考えていると、なんかが飛んできた。
黒いゴマみたいな粒だった。ゴマ?
指の腹のところにくっつけてよくよく見るとそれは、消しゴムのかすを丸めた粒だった。
女子の人は気づいていないようだったので、無視した。
引き続き教えてもらっていると、もう一度ぱらぱら飛んできた。
今度は女子の人が気づいて、「何かな」というので、「ちょっとすみません」と断りを入れて、 飛んできた方に向かって「ナンダコラ!」と口パクでいってやった。
言われたやつは「ばーか」といった。これまた口パクで。
やはり、流川の仕業だった。
えっらそーにふんぞり返っていすに腰掛けてやがる。
「ばかとはなんだ」と叫ぼうとしたが、女子の人が「けんかはだめだよ」とおっしゃったので。
まあ、ちょっとやめておいた。
委員会が終わり部室に向かう途中、「さっきのありゃなんだ。ゴマなんかとばしやがって」と抗議すると、 「くっつきすぎ」とキツネはいった。
「英語の宿題を聞いてたんだよ」
「カンケーねー。くっつきすぎ」
ビッと人指しゆびで俺をさして、部室に入っていく。
慌てて後を追う。
無言でロッカーを開けるキツネの様子を横目で伺いながら、さて、と考える。
・・こういう時ってどうすりゃいいんだろうな。
謝るのもおかしいしな。
わりいことはしてねーからな。
慰めるのはもっとおかしいよな。
確実に殴られそうな気がする。
こいつのコブシ、結構イテェんだ。
無言で着替えを始めた流川に、俺は焦る。
ちょっと解説を入れることにした。
「あの人な、帰国女子でな、すげえんだと。」
キツネの手が止まる。なにやら、いぶかしむような顔で俺を見てくる。
「…キコク」
「ジョシ。キコクジョシ。なんか・・・中学までイタリア住んでたらしくて、英語がぺらぺらなんだとよ。だから宿題を聞いてたんだ。わかったか。」
「…なんかおかしくねえかそれ」
「なにが」
「なんか。今の。なんかいろいろ変な気がした。なんか。」
珍しくニュアンスなことを言いやがる。
「変か?」
うなずくキツネ。
「なにが変だ」
「なんか変だ・・ケド」
「どこが変かはわからねえのか」
「そー」
「ふーん」
何が変なのか結局俺たちにはわからなかった。
俺らにはわからねえことがいつだって山ほどあるからな。だから大して気にしない。けれども・・
「今日うちに寄って行けよ。おめーに食わせたいもんあるし」
「あー」
けれども、目の前の流川の機嫌。
これは、俺にはとても重要なことなのだった。
そろそろ流川君を死ぬほどかわいがるようなお話が書きたいです。
2008/11/09