はしれ⑤

しんじらんねー

送っていきやがった。
こくはくしてきたヤツを、夜道があぶねーって、送っていきやがった。
なんでだ。
自分が待ってたんだろ。
自分できめたことじゃねーか。なんで、心配する必要があるんだ。
わけわかんねー。

言ったって、どーせてめーはおれがつめてーつって怒るんだろ。
もう、テメーにはなにも言わねーよ。

なんで、今日はじめて口きいたようなやつにやさしくして、
なんで、まいんち一緒にバスケやってメシ食って、殴って、憎まれ口たたいて、 手え握って、くっついて、舐めたり噛んだり見つめあったり、笑ったり、怒ったり、 なだめたり、たまに泣いて、大事だって好きだって言って、言い合って、 たくさんのいろんなこと共有してきたおれには、優しくしねーんだ。
ここしばらくのおめーの態度は何なんだ。
もうおしまいってことかよ。
送ってったってのはそういうことか?

なぁ、てめーは、ほんとに優しくしてるつもりなのか。
テメーのそれはほんとに優しいのか。

教えてやるよ。

てめーはな、50人にフラレたむかしの自分にやさしくしてるんだよ。
それだけなんだよ。
気付けよおおばかやろう。
記録更新してえのか。
てめーのそれは、優しさじゃねえ。
いつまでも昔の傷が癒えないで、自分で自分をなぐさめて甘やかしてるだけだ。
なんて、ダセえことしてんだよ。

なんで早く気付かねえんだ。
てめーが気付けば、オレが今のお前に優しくしてやるのに。
ほかの誰でもねぇ、テメーになら、おれはいくらでも優しくしてやれるのに。

なんでテメーとオレの間に線をひくんだ。
なんでオレを遠ざけるんだ。
なんで早く気付かねえ。
なんでそんなにばかなんだ。
なんで、そんなに、おおばかなんだ。

でも、オレは待ってる。
いま、桜木の家の前で、あのおおばかをまってる。
もう気付いたろ。
いい加減気付いたろ?
今頃気付いて焦ってるはずだ。
気付いてなきゃ、オレはホントにもう、しらねーぞ。

ほら、やっぱり。
おれを見付けて、走ってやがる。
夜をバックに、オレのだいすきなあの明るさまとって走ってやがる。
てめーのこと、なんか、久しぶりに見るな。
なんかぼやけて見えっぞ。
なんだよ、ずいぶんおせえじゃねーかよ。
オレの家に寄ってきたんだろう。
あいにくだが、オレはそんなにおとなしくねえ。
夜道も危なくねえしな。
おれはいつだって、自分のやりたいようにやる。
おとなしくじぶんちで待ってるなんて絶対やらねー。

「ハアッ!!…わ、悪かった。おれが、悪かった、ルカワ。オレ、勘違いしてた。」

やっと気付いたか。

「オレ、ぜんぜん分かってなかったな。
すまねー、ルカワ。ああ、泣くな、いや、泣け。オレがわりいよ。ルカワ、なぁすまねぇ、ルカワ」

触れようと伸ばしてきた手を振り払い、
気付いた祝いに、腹に渾身の一発を見舞ってやる。
ああ、チクショー、もう前がよく見えねえよ。

倒れこんで、ぐえっって言ってる桜木の頭をつかんで上に向かせて、それから両頬を力の限りに引っ張って、

「好きじゃなかったら、ブッ殺してるとこだ」

吐き捨てるようにささやいて、キスというより噛みついて。

どあほうのあたたかさに、ここ数日間の、寂しさを思う。

おい、どあほう。
明日から、いくらでも、テメーが望むままに、オレはテメーに優しくしてやろう。
だけど、今夜だけは、テメーがおれに優しくしろ。
オレはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ傷ついたんだ。

なぁ どあほう、おれのこと好きか?

おしまい