週末、体育館がバレー部の練習試合に使われて、部活ができなくなった。
その上、月曜が祝日だから、学校もない。
つまりルカワに、あえない。
2日目の夜にはもう限界が来たおれは、ヤツのケータイに電話した(オレ様は家電派だ。こだわり派だ。)
暇だというから(そりゃそうだろう)、ファミレスで待ち合わせをすることにした。
何でてめぇン家じゃねえんだとか言ってたが、恋人っぽいことがしたいんだ!!
・・・・とは口が裂けても言えねえ。
天才の沽券にかかわる。
「気まぐれだ!気まぐれは天才の常だ」
といったらフーっと溜め息がかえってきた。
ヤツお得意のふーやれやれのポーズが目に浮かんだ。
アメリカかぶれめが。
じゃ、1時間後にと約束して、電話を切った。
オレは浮かれた。
ルカワと外で待ち合わせなんてめったあることじゃねーからな。
デートだデート。
それに、久しぶり(2日だけど)にあいつに会えるんだ。
店に入ったら、まだ、来てなかった。まあ、致し方あるまいな。
ずかずかと入ってって、角の席をとって、ピンポン鳴らして、から揚げとフリードリンクをたのむ。
いくらか払えば、あとはお代わり自由のアレだ。いいサービスだよなあ。
氷をいっぱい入れてファンタを注ぐ。
ポカリがあればなー。
ん?オレのアタマを見た店員がびびってる。あんだよ、赤い頭がそんな怖いかよ。
ファンタ片手にルカワを待ちながら、ルカワが来たら何を話そうかと考える。
たった2日会ってないだけだが、話してえことはたくさんあるんだ。
昼に作ったやたらうまいチャーハンの話をして、そういうと奴はきっと今すぐ食いたいというに決まってる。
それから、昨日の高宮の・・プププっ!オモロイ話をしてやろう。
流川は無口だが、意外にアレで聞き上手なんだぜ。
最初は無表情相手に何を話していても、のれんに腕押し状態で、どうしたもんかとおもっていたが、 奴の表情の微妙な変化を読み取れるようになってからは、 アレでいてけっこういろいろ感じながら聞いてんだってことが分かったんだ。
以来、愛しさは増すばかりだ。
「いらっしゃいませー。」
店員の声が聞こえたので、入り口付近に目線をやったら、ルカワがいた。
ジーンズにシャツというフツーのカッコウなのに、えらくかっこよく見えた。
そして、それは店にいたみんなが思ったことらしく、ルカワが足を一歩踏み入れたとたん、間違いなく 空気が変わって、ざわっとなった。みんながルカワを目で追っていた。オレの隣の席の女の人たちは奴の名前まで知ってるらしくて、「あれって、ルカワ君じゃない?」とかなんとか言ってる。
おれはというと、なんでこんなに腹がたつのかわからねえくらいとにかく腹がたっていた。
みんながルカワをじろじろ見てる。
どんどんどんどん重たい気持ちが沸き起こってきて、自分でもびっくりした。
だから、
「ヨォ」
と挨拶して来たルカワにも、
「ああ。」
としか返せなかった。
ルカワはなんも悪くねーのに。
オレときたら、腕は店のソファーの背もたれの上にのっけて、顔は窓に向けたままっていう状態で挨拶だぜ。
感じわりいったらありゃしねえ。
来る前のイメージだと、「オレ様に会いたかったか!」とかなんとか言って迎えるつもりだったのに。
おれのそんな態度をちょっとだけ訝しみながらも、向かいの席に腰を下ろす。
それを横目で見届けて、店員を呼ぶボタンを押してやる。
ピンポーンと間抜けた音がする。
「あに飲んでんの?」
「・・ファンタ。」
「オレ、牛乳がいー。」
「・・・んなもんねえよ。」
相変わらずすっとぼけた奴だ。いつもなら、そう言ってやるんだが、いえなかった。
なんか口がすっかり重くなっちまった。
オレとルカワが会って、オレの口が重くなったら、そこに残るのは、沈黙だ。
「・・・あんで、なんもしゃべんねーの。」
「うっせ。だったら、テメーがなんかしゃべりゃいいだろーが」
今のはなんか意地悪かった気がする。
おしゃべりでない奴になんかしゃべれなんて、意地悪だったような気が・・アイテッ!
テーブルの下でルカワが思いっきり蹴ってきやがった。
しかし、その行為は咎めることができん。
そりゃそうだよな。
オレの態度が悪かったことを謝ろうと思ったとたん、しかし、
「ご注文は何にされますか?」
悪いとしかいいようのないタイミングで、店員が注文をとりに来た。
ルカワをみて顔を赤らめてやがる。このヤロー、オレんときは、眉ひそめてたくせによぉ。オレとキツネのどこが違うんだよ。
「ファンタとポテト。」
「ファンタ・・あ、フリードリンクですね。と、ポテト。えー・・フリードリンクはセルフサービスとなっておりますので、 あちらの方で、おつぎください。」
案の定、ルカワの顔はキョトンだ。
「セルフって?」
「自分であっちにいってついでくるんだよ。好きなモンをな。」
「どうやって?」
「行ったら分かるだろ。」
「分かるかよ。」
そうだよな。お前が分かるわけねえよな。
でもじゃぁって言って、付いていくにはあまりにオレの機嫌は悪すぎた。
この店員がわりぃ。
「あ、なんでしたら、ついで参りましょうか?」
と店員が聞いている。相変わらず赤い顔して。
凶悪な視線と憎たらしい舌打ちをオレにくれて、流川は店員についてファンタを注ぎに行った。
あいつにやらせてなんも起こらないわけがねぇ。
ワァァ!
ほらな。ありゃぁ、おおかたルカワが起こした騒ぎだぜ。
手を放すタイミングを間違えたんだろうよ。
戻ってくるまでに、軽く5分はかかるだろーよ。
面白くねー。
ルカワが戻ってきても、オレは相変わらずな態度で、窓の外を眺めてた。
ふと視線を感じた。
窓のガラス越しに、流川と目が合った。
すっげえ怒った顔してる。
ちがう、あれは傷ついてるんだ。
しまった。
ルカワが目を逸らした。
慌てて顔をルカワの方に向ける。
「わりぃ。」
「・・・・テメエ、すっげえむかつく」
「すまん」
「ちゃんとアヤマレ。」
「ごめんなさい、流川君。ごめんなさい。」
「電話して来たのはテメーだろ。」
「ソウデス。」
「そんでその態度ったぁ、どーゆーツモリだ。」
「スンマセン」
「・・・・てめぇ すっげえ むかつく。」
「うううう。すまねー、流川。」
うなだれる。
オレってなさけねぇ。
会いたくて仕方なかったはずなのに、2日ぶりに会えたのに、しょーもねー感情でルカワのこと傷つけてしまって。
「・・・・サルだから、仕方ねえ。許してやる。」
舌打ちしながらも、そう言ってくれて、ほっとして、やつの顔を見た。
まだ怒ってる。
しかしそう思った直後、テーブルの下で、流川が足を絡ませてきた。
いつの間にか靴を脱いでいて、オレのふくらはぎを足の裏っかわのくぼんだところでゆっくりなぞってきやがる。
そのゆっくりした動きが、流川も会いたかったって言ってるみたいで。
相変わらず顔は怒ったままだけど。
テーブルの下では、おれとルカワは、足と足を絡ませている。
たったそれだけのことなのに、オレはすげーかんじてしまった。
「早くテメーんちに行きてぇ」
キワメツケのセリフだよなぁ。
相変わらず、ルカワのことをちらちら見てる奴がいて、さっきの店員が嬉しそうにポテトを持ってきた。
でも、オレはもう気にならねぇ。