湘北の星①

今日の体育は10組との合同授業だった。
10組、キツネのクラスだ。俺は合同授業と聞いたときから楽しみで楽しみで仕方なかった。休み時間と部活以外で学校でアイツと一緒になることなんてほとんどないからだ。
グラウンドに出て流川を探すと奴はもう出ていて、なにかあさってのほうを向いてつったっていた。遠くから見ても体育着がなかなかに似合ってやがる。あれがスタイリッシュな着こなしってやつか。寒いのか少し背中を丸めているが、しかしグラウンドの中でもおてんとさんの光が一番あたるところに立っている。あいつはあたたかい所を見つけるのがうまい。体があったかい方あったかい方へと自然に向かうのだ。あれは本能的なもんなんだろう。
なんとなくを装い近寄ってぼんやりしている流川に「おいキツネ」と声をかけると、いつになく機敏な動きを見せて、流川は振り向いた。
「なんでテメーがいる」
相変わらず物事を何もわかっていないヤローだ。
「今日は俺のクラスとおめーのクラスとで合同授業なんだよ。お知らせされただろうが。人の話はしっかり聞いておけよな」
俺なんて10組と合同授業だと聞いたときからどきどきワクワクしてたのに、こいつときたらまったくそんなことなかったんだろうな。
「どーりで」
キョロキョロしながら「見たことねーやつがおーいとおもった」とかぬかしてやがる。とんだぼんやりヤローだ。

ちょとして向かいから洋平が腕を交差させてさすりながらやって来た。
「おー流川。なんかこういうのって新鮮だな。あーしかし寒いな」
「合同授業ってなにやるんだろな」
「陸上らしいぜ?」
洋平は何でもよく知っている。この世にしらねえことなどなにもないんじゃねーかってくらいなんでも知ってる。それに比べて隣のキツネは何も知らない。横目でチラッとキツネを見ると、キツネはじーっと俺の運動靴を見ていた。
なんかむずむずしたので視線を剥がそうと見られている足を浮かした。
「何見てんだよ」
「テメーそれ・・寒くねーの」
「あ?」
「ソレ」
「花道、靴下のことだ。なんで靴下はいてねえのかっていうみんなの疑問だ。なあ、流川」
洋平が振ると流川はうなずいた。
「あー・・・靴下なー。あれはどーにも体になじまねえんだよ・・・」
「靴下がなじむもなじまないもないだろ。っていうかおまえ、寒くねえの?」
「ああ」
「花道は俺らとは根本的に体のつくりが違うんだろうなと思うときがあるよ」
「天才だからな!」
「サルだからだろ」
流川にコブシを振り上げた瞬間、「あ、桜木君のクラスだったんだねー」と聞こえた。見るとバスケ部の一年のめがねが立っていた。
「お!一年!お前もいたのか!」
「ははは。ここにいるのみんな一年生だよ」とめがねに返され、なかなかにうまいことを言うなと感心する。
「石井くん、さっきからあそこのほうで女子達が騒いでるのが、もしかしてウワサの”湘北の星”かい?」
突然、意味のわからないことを洋平が言った。
「あ、そうだよ。水戸君もしってるんだね。湘北の星。」
「湘北の星!?なんだそれは!!」
「ほらあそこだ」
洋平が指を指す先にはいつの間にか女子の人だかりができていて、その先にひょろりとした奴が立っていた。洋平が言うまで気づかなかった。
「なんだあの感じの悪いやつは!湘北の星ってなんだ!」
めがねの肩をつかみ揺さぶり問いただす。
「痛いよ桜木くん。彼はね、うちのクラスのもう一人のスターなんだ。陸上部なんだけど、湘北の歴代の最速記録を塗り替え塗り替えの超高校生らしいよ。詳しいことはよく知らないけど、一年生なのにもう次期陸上部キャプテンなんていわれてらしい。ということで、湘北の星なんだよ。それに感じ悪くなんてない。とても感じいいよ。頭もいいし。いろいろすごいよ。彼は流川くんと並んでうちのクラスでは大スターなんだよ。もちろん僕は流川くん派だけどね。」
最後にどうでもいい私見を付け加えてめがねが解説した。
スターという言葉に胸がザワザワっとする。
「お前は知ってたのか!」
流川に向き直ると流川はまだ俺の運動靴を見ていた。
「もうお前これ見るな!」と足を浮かせて言いつけると、顔を上げて「くつヒモほどけそうだぞ」と言ってきた。
「あ、ほんとだ。危ないぞ」と洋平までもがなんか笑いながら言ってきた。
「もうっ!」
しょうがないので屈んで結びなおす。「湘北の星」が気になって靴紐どころじゃねえのに!ほんとにいちいちマイペースなキツネだ。調子が崩されて仕方がねえ!
ぎゅうっとしっかり蝶結びにして立ち上がり、めがねの石井に向かって「もっと教えろ」と続きを求めたところで”ピー”っと笛が鳴り集合の合図がかかった。

>>湘北の星2

2012/01/12