いいにおいがするなと思ったら、目が覚めた。
トントントンと聞こえてくる。料理のときの音だ。
見慣れない天井。
いつもとちがうカラダの感覚。
そうか、昨日はルカワんちに泊まったんだった。
6時10分か。
いつもよりちょっと遅い。隣にいるヤツを見れば、まだ寝てる。
当然か。
朝練にはまだちょっと早い。
さて、起きてもいいものか。
オレは二度寝ってやつができねーんだ。
ああ、しかしいいにおいだ。
味噌汁か。
やはり再び眠ることはできなかったから、遠慮しつつも、下に降りてみた。
階下には味噌汁のにおいがただよっていた。
おいしそうなにおいだ。
おれに気づいたルカワのおかーさんが、昨日と変わらない笑顔で
「おはよう」
と言ってきた。
「おはようございます。」
「眠れた?」
「はい。」
「あの子まだ寝てるでしょう?」
「はい。」
「桜木君はいつもこんなに早く起きてるの?」
「はい。」
「えらいわねぇ。」
「おかーさんも、はやいですね。」
「そうなのよ、お父さんが早く出るもんだから、お弁当作ったりいろいろしないといけないから早起きなの。」
おかーさんは偉いなぁ。
「ご飯食べる?」
「あ、キ、ルカワ君と食べます。」
「あの子待っててもまだしばらく食べれないわよ。先に食べちゃったら?」
「いや・・・・」
腹は減ってるんだけど、なんか、遠慮しちまった。
ルカワのいねーところで、ルカワのおかーさんにご飯を用意してもらうことに、なんか遠慮してしまった。
そんなオレに、おかーさんは「そーお?」と、優しく目を細めて、
「じゃあ、コーヒー飲む?」
ときいてきたので、それはいただくことにした。
大きなテレビがある居間にある、これまた大きなソファーを指差して、
「あそこに座っていたらいいわよ」
と言われた。
ソファーはふかふかだ。
明るいなと思って、横を見たら、大きな窓があった。
窓の向こうには、昨日来たときはよく見えなかった庭がある。
庭には光が射してる。
キレーな庭だ。
ああ、キレーだ。
きらきらしてらぁ。
「はい、どうぞ。」
だけど、おれはそのコーヒーを受け取ることができなかったんだ。
「あらあらどうしたの。」
そう言って、コーヒーをテーブルにおいて、おかーさんはおれの頭を優しく抱いてくれた。
やっぱりだ。
やっぱりキツネのおかーさんは、やわらかくてあったかかった。
「スンマセン」
「どうしちゃったのかしらね。」
そうして、おかーさんは、オレの涙がとまるまで、やさしく頭を抱いてくれていた。