呼ぶ声

スーガクの時間、窓からいっぱい光が入ってきてすげーまぶしくなった。
まぶしすぎで前がよく見えなくて目をしぱしぱさせてたらなんか眠くなってきたので、寝ることにした。
そしたら夢を見た。
下が見えない階段を降りてる夢だった。
なんもなくてすっげー退屈だったから寝ながら降りてたら、「流川ぁーっ!」と名前を呼ばれた。いきなり呼ばれてびっくりして、階段から落っこちそうになった。
落ちる瞬間、からだがびくっとなって、そこで目が覚めた。
すげーびっくりした。
背中のあたりに汗みたいなのをかいてて、胸のとこに手をあててみると心臓がどきどきしてた。あんな高いところから落っこちたらどうなってたんだと思うともっとどきどきする。
気付いたらそばに、せんせーが立っていた。
ちょびっと頭を下げた。俺がわりー気がしたし。
持ってた教科書でポンと頭を叩かれて「もう寝るなよ」と言われて前に戻ってった。
実際、さっきの夢が頭から離れなくてその後もぜんぜん眠くならなかった。

「おまえそんだけぐーすかぐーすか寝てっけど、いったいどんな夢見てんだ」

前にどあほーからいわれたことを思い出す。
夢は見ないと言ったら「おまえはホントに無駄に寝てるだけなんだな」と呆れ顔でいわれた。
あの時はむっとした。
夢見たらえらいのかとかいろいろ思ったけどうまいこと言えなかったからだまっといた。
だけど今日は夢を見た。

なんとなくどあほーの顔が見たくなったから、昼休憩にあいつのクラスに行ってみた。
いつもはそんなもん見にわざわざ行ったりしねーけど見たくなったもんはしょーがねー。

どあほーのクラスに行くと大体、水戸がどあほーの前の席に座ってなんか話してる。今日もいた。ふたりでなんか笑ってる。
先に水戸が俺に気づいて手を上げてきて、それにつられてどあほーが俺を見つけた。
俺の姿を見るなりどあほーがいやそーな顔をしやがった。
照れ隠しとかじゃなくて本当にいやそーな顔だった。・・・やな顔。
「しかめ面しながら人の教室に入ってくんな」
先にいやな顔したのはテメーの方だろ。
「おおー・・・流川が来るだけでこの騒ぎだ。やっぱすごいな」
水戸がニヤニヤして俺の後ろのほうを眺めている。
「どこがすごいことあるかっ!キツネ、テメーなにしにきやがった」
なにしにって・・・
「ふらっと」
「現れたってか!旅人気取りかよ!」
ちげーし。夢の話をしようとすると、ぷいっと目をそらされて、「ここにはくんなって言ってんだろーが」と言われた。
忘れてたけど、どあほーは俺がクラスに来るといやがる。
なんでか理由はよくわかんねーけど、来るなって言ってくる。
そんなの俺の勝手だろと思うけど、こうやって本気でいやがられてんのを見ると、来るんじゃなかったと思う。
つまんねえ。
「るかわくーん」
いきなり女のでかい声で名前を呼ばれた。
振り向くと、なんか「ぎゃー」って死にそうに叫ばれた。
てめーらから呼んできたくせになんだそれ。
見てると、どんどん女が増えてきた。
「流川君」「流川君」と俺の名前が聞こえるけど名前を呼ぶだけで話しかけてこない。
こいつらなにがしたいんだ。
わけわかんなくてそのまま見てると、袖をぐいっと引っ張られた。
座ったままのどあほーが下から俺を睨んでいた。
「おまえ、もう自分の教室に帰れ。」
「なんで」
「お前が来るとうるせーんだよ」
「はなみちー。流川は悪くないだろ。」
水戸にかばわれて一気にテンション下がる。
「キツネが悪いに決まってら。なんだよこのクラスは。ぎゃあぎゃあと騒がしい。あーさっきまでの静けさが恋しいぜ。」
俺がじゃまものってことかよ。
「もうこねーし」
「二度とくんな」
「一生こねーし」
「ああ!来るな来るな」
しんでも来るか。
すっげー腹が立ったので100パーの力でどあほーの脛を蹴りあげてやった。
蹴ったとき「ギャッ」と言ってた。本気で痛がっている声にざまーみろと思う。

自分のクラスに戻りながら、行くんじゃなかったと思った。
・・・夢なんか見なけりゃよかった。
すっげー、ヤな気分。

「キツネ!」
後ろでキツネを呼ぶ間抜けな声がする。そんなもん学校にいねーし。
「流川!」
しらねー。
「おいって」
肩をつかまれて振り向かされたけど、手を払いのけてやった。続けて蹴ろうとしたら、サルがさっと後ろに飛び去った。
「お前さっきのすっげえ痛かったんだぞ」
「いい気味だ」
「怒ってんのかよ。」
「テメーが悪いんだろ」
「だって俺の教室にはくんなって言ってのに、お前が来るから」
そんなヤなこと何べんも言うな。
「二度といかねー。テメーの家にだって二度といかねー」
そう言ってやると、どあほーが眉を寄せて困った顔した。
「・・家には来いよ」
「行かねー。どこにもいかねー」
「拗ねてんのかよ」と聞いてきた。こたえるのがいやだったのでそのまま自分のクラスに戻ろうとすると「だから待てよ」と止められる。
帰れと言ったり待てと言ったりずいぶん勝手なんじゃねーの。
また蹴ってやろうかとどあほーの脛のあたりをじっと見てたら
「お前、俺がなんで来るなって言ってるかまったくわかってねーだろ」
顔を覗き込まれながら聞いてきた。変な顔。
返事をしないでいると、「お前が来るとうるさくなるんだよ。」といわれた。
「だから?」
それが俺と何のカンケーがあるんだ。
「いやだから・・・おまえが来るからなんだよ。お前が来て、お前を見て、みんなが騒ぐんだよ。俺はそれが、面白くねえんだ。この意味分かるか?」
なんかよくわからなかったから黙ってると、はあっとわざとらしくため息をつかれた。
「なあ、屋上行こうぜ」
「いかねー」
「でも、なんか話があったんだろ?」
さっきまであんなに感じ悪かったくせに。
「なあ行こうぜ」
ふたりになったとたん、そんな風に言ってくるのはずりーと思う。
なんかまだいらいらする。

「流川」と名前を呼ばれて、それからちょっとだけ手を触ってきた。
どあほーの指はがさがさしてた。
そういやなんか昨日クリームみたいなのを塗っていた。
「これが家事とバスケをする手だ。拝め。」とか言っていた。
赤くてちょっと切れてるところもあった。
「おい」
もう一回触られた。
「夢を見た」
「うえっ!?お前がか!?」
びっくり顔をされた。
見たかった顔が見れた。
「どんな夢だよ!?」
目をまん丸にしてちょっと笑いながら聞かれてきてテンションあがる。
話そうとすると、またどっかから「流川君」「流川君」とひそひそ声で俺の名前が聞こえてきた。でも俺を呼んでいるわけじゃないからもう振り向いたりしない。
「屋上行くぞ」と腕を引っ張られた。
寒いから行きたくねーなと思ったけど、「ふたりっきりになりてーんだよ」と言われて俺もそれがいいと思った。
もう一度腕を引かれたので、ついてった。

2011年11月11日・・・・空前絶後の流川くんDAYでしたので。
いろいろ呼ばれることにしてみたんですけども。
どうでしたろか。
2011/11/11