ラブスコール

「いまからいく。」
と、言ってから、いつもかかる時間よりも30分もオーバーして、流川がやってきた。

顔に傷をこしらえて、服はなんだかすすけてっぞ。

「ん」

と、差し出してきたのは、ドハデなピンクの紙袋に、一杯に入ったじゃがいもだ。

それは、いろんな意味で、違和感を覚える光景だった。

傷が目のとこだったんで、ちょっとばかし手当てをしてやりながら、話を聞いてみると、どうやら、キツネのとーちゃんが、ダンボール箱一杯にどこぞの集まりから、 じゃがいもをもらってきたらしい。どうしてそんなことになったのか、なんせ語り手はキツネだからな、 詳しい話はさっぱり分からん。とにかく、流川家に、といただいたじゃがいもを「桜木くんに持って行って」と、出がけにおかーさんに渡されたんだそうな。

めんどくせえと思ったらしいが、「いつもお世話になってるんでしょ!」と、一喝されて、 こんだけの量のじゃがいもを運ぶことになったらしい。せめてママチャリでくりゃいーものを、 急いでたらしく(思うに、オレに早くあいたかったんだろうな)、駿足を誇る愛チャリで来やがったのが、運のつきだった。
途中でいつものように、睡魔が襲ってきたらしく、一秒だけ(とやつは言うが、疑わしいな) 、こっくりときた次の瞬間、停まっていた車にぶつかって、袋が破れて、じゃがいもがこぼれ落ちるわ、飛び出すわで大変な騒ぎだったらしい。 自業自得とはいえ、気の毒ではある。
じゃがいもはなかったことにしようと何度も思ったらしいが、オレとおかーさんの鬼のような形相がそのたびに目に浮かんだんだと。 最後の一個まで集めて、さて、どうやって運ぼうかと考えていたら、一部始終をみていたらしい、近所の洋服屋さんが、 みかねて袋を提供してくれた、と。
それが例のピンクの袋だ。

そこまで聞いたところで爆笑したオレだったが、ヤツはそれが気にくわなかったらしく最近のお気に入りの座布団をおってふて寝を始めやがった。

「おら、こっち向けよ。まだ終わってねーだろ。」

「もーいー」

「いくねーって、ほら。」

「寝てりゃなおる。」

「良いからこっち向け。」

と、強引に顔を向かせて、手当ての続きを施す。

「・・・てめえはホント無器用だなあ」

「フン」

「加えてばかだ。」

「うるせー。テメーだってかわらねーだろ。」

「・・・・でも今日は、えらかったじゃねーか。」

「子どもが、子ども扱いすんな。」

「してねーって」

じいっと見つめて、そっから、チュッとひとつ唇におとして、

「あのジャガイモで、奇跡のイモ料理を作ってやろうじゃねーか。」

「何が食いてぇ?」
「チャーハン。」
「いも料理つったろ?」
「・・・サトイモのニッコロガシ・・?」
「惜しいがチと違う。」
イモ違いだな。

「よしコロッケを作ってやろう。」

「・・・ころっけ」

「ああ、皿いっぱいにコロッケだ。」

キツネののどがグビリと鳴った。

***

ぐしゅっ

さっきから何度も何度も飲み込んでる。
飲み込んでも飲み込んでも、あとからあとからどんどん沸いてきやがる。
涙か。
そりゃー仕方ない。
今たまねぎ切ってるからな。細かくみじん切りだ。
しかしちがう。飲み込んでも飲み込んでも、わいて出てくんのは涙のことじゃねえ。

気持ちだ。
感情だ。
沸き上がる、この感情はなんだ。

愛だ。

参った。

アイツが愛しくて仕方ねえ。

オレの中にこんな気持ちがあったのか。

ぐしゅっ

「泣いてんの?」

「うわあ!」

「いきなりのぞきこむヤツがあるかよ!」

「泣いてんの?」

そう言いながら、親指でオレの目許をぬぐってくる。
コイツはオレの出す音に敏感だ。

「いま、たまねぎ切ってるからな」

「んなこと聞いてねー」

「ばっ・・・ああ、そうか・・・テメーはしらねーのか。 たまねぎっつうのはな、切ると、なんか出てくんだよ。涙を流させるなんかがよお。 それがこうな、目に入ってな、人間サマの目から涙を流させるんだよ。」

「ふーん。・・・じゃー・・・めがねかければ。」

考えたな。

「んなもん、いちいちいかけてられっかよ。ほら、もーいーからてめーはあっちいってろよ。」

火と油のあるところにテメーがいるってだけで、めちゃくちゃこえーよ。何がおこるかわかりゃしねぇ。

「ひま。」
「テレビ・・・はみねえからなぁ・・・寝てろ!」
「飽きた。」
「始終寝てるテメーが悪いんだろ。ほら、行けよ!キツネ、厨房に入るべからずだ!」
「・・・・・サルはいーんか。」
「うっせ!」

ケツのあたりを蹴って追い出そうとしたら、蹴り返されて、あぶねっ!だから火があるんだってばよ。
ようやく不承不承といった感じで部屋に戻ってく。

作業の続きだ。

イモをつぶして、肉と混ぜて、形を作って・・・

卵を出す合い間に、ちらっと部屋の方を覗いてみれば、
キツネのヤツがテーブルの前にちょこんと座って、目の前の雑誌そっちのけで何かを考えてる。 何かんがえてんだかな。あの様子じゃたいしたことじゃなさそーだがな。クアッっとあくびしやがった!

くぅっ!
またこみ上げてきたので、頭を振って専念専念!

小麦粉、卵、パン粉をまぶして、手についたごわごわを洗い流して、揚げる。

ほんとコロッケってのは手間ヒマかかる、愛情てんこ盛りの料理だよ。
キツネが大好きなはずだぜ。

いつもならめんどくさくてとてもやってられねーが今日は特別だ。
キツネへの、たまらねー愛情から、今日は特別大サービスだ。

そうして、出来上がったコロッケは・・・・

奇跡のコロッケだった。

こんがりルカワ色で、仕上がりも最高。

「できたぞ!」
山盛りのコロッケをドンと目の前においてやれば、

「・・・!!チョーうまそー・・・・」

その言葉に満足したオレは、食ってよしの合図を出す。

がつがつ食いだし一心不乱に無言で食べるキツネの向かいに座って、オレも食べ始める。
やべー・・・うめー・・・!

それにしても作りすぎたかもしれねえ。

「高宮たちも呼んでやるか。」

そう言って、立ち上がって、電話のところまでいったが。。。

「ほふぁねーの?(よばねーの?)」
戻ってきたオレに、コロッケ頬張りながら、上目遣いで聞いてくる。

「うむ。このジャガイモは、テメーが血と涙を流しながら運んだジャガイモだからな。」
「泣いてねぇ」
「わかったわかった。いてえ、蹴るなって!・・血と涙の、いて、わかったよ。テメーの・・努力の結晶の あのイモたちはだな、テメーとオレ様だけで食うんだ。」
「・・・・ふうーん。」
「テメーだけのイモ料理だ。」
「ふーん。」
「うれしーだろ。」
「・・・・。」

黙った。嬉しいんだな。

「そのかわりテメーこれ残さずきっちり食えよ!」
「食う。」

そして、俺達は、それから、ただひたすらにコロッケを食った。
食って食って食いまくった。

本当に残さずたいらげたキツネは、「はらいっぱい」と言って、膨れた腹の重さにたえきれず、寝転んで仰向けになった。

その隣に移動しオレも横になる。

「うまかったか?」

「サイコー。」

「うむ。明日からテメーは1週間俺んちで、イモ料理だ。奇跡の1週間だ。おかーさんにそう言っておけよ。」

「わかった。」

「・・・さーて、と。明日はなににすっかなぁ。オメーなにがくいてえ?」

オレも懲りずによく聞くよ。しかし・・

「肉じゃが」

「おおっ?!正解だ。」

オレの反応に、キツネがにんまり笑った。
ヤロウ、考えてやがったな。
そうして、おれたちはもう1度、今度は長めのキスをした。
キスの合間に「ぽてとさらだ」と、キツネがつぶやいた。

ああ、愛しいやつめ。

流川くんを可愛がる気持ち満々で書いたのでした。
タイトルはルパン三世のエンディングテーマのタイトルをパクリンコ。