ボタン

今日は流川は来ないはずだった。
昨日うちに泊まったから、今日は帰らなきゃならねーのに、なのに、ついてきた。
でもオレも別れたくなかったから、そのまま一緒にうちに連れて帰った。
帰り道、やけに近くに寄って歩いていた気がする。
腕があたるたびに、「あたるな!」と叫んで小突いた。
いつもより小突く回数が多かった。

家について玄関に入って、目が合った。
ドキッとして、心臓のところがきゅーっていって、なんかしらねーけど、すごくしたくなったからキスをした。 頭を引き寄せて、唇とくちびるを重ねた瞬間、からだ中が、かーってなって、とまらなくなった。 舐めたり噛んだりしていたら、どんどんルカワの気持ちが入ってきて、オレの気持ちもルカワん中に入っていくのが分かる。 流川の体がどんどんとやわらかくなっていく。
あったけえ・・。
もっともっと触りたくなって、でも急いてる気持ちとは反対に、ゆっくりゆっくり学ランのボタンをはずしていく。
たまに目を合わせて、サルだとキツネだと言いあいながらも、手はしっかり動かして。おい、わきばらはくすぐってえよ。
学ランのボタンを全部はずして脱がそうとして、そして、目に飛び込んできたルカワの姿に・・・爆笑だ。

「なんでわらう」
「だって・・おめー・・これ・・どうなってんだ」

シャツのボタンをかけ違えてやがる。
それはもう盛大に、だ。
どうなっているのか、目と指先で確認する。
一番上からずれているはずなのに、最後のボタンはちゃんとあっている。
つまり途中のボタンをすっ飛ばしてとめているということだ。

「なんつーいい加減な服の着方をするんだ、おめーはよぉ。」
「たまにまちがえる」

そう言って頭をぽりぽり掻くルカワに、またもや心臓がきゅって鳴る。

「人が見たら、おめー・・笑われっぞ」
「テメー以外はみねー」
「そ・・・ーかもしれねーケド」

つーか、そうじゃなくちゃならねーんだけどよぉ。
一段一段、かけ違ったボタンを外していく。
自分でちょっと顔が赤くなったのが分かる。
コイツは、たまにこういうセリフをしれっと言いやがるんだよな。

「鏡見ながら、ボタンかけていけば、間違えねーんじゃねーのか?」
「メンドクセー」
「でもおめー、あれじゃあんまりひどすぎるぞ」
「服がとじてればいー」
「まー・・・そーかもしれねーが」

しかしなぁ、と思いながら、一つ一つとめていく。
とめてやっている間に一度、「つむじ」と言って頭のてっぺんを押さえられた。

「おし!出来たぞ」
「ん」

きちんと閉じられたシャツを眺めて満足し、ついでに学ランのボタンもとめてやる。 また間違えたらいけねーからな。

「さみーから、これ巻いてけ」
「ん」

俺のマフラーを巻いてやり、じゃあな、と送り出す。

「またアシタ」

ボソッと言って、チャリにまたがり、そしてルカワは帰って行った。

ルカワが通った道をしばらく眺めて、家に入る。

風呂場で服を脱いでいる時、ルカワのいい加減なシャツの着方を思い出して、また笑ってしまった。
それから、脱がせていたはずなのに、ボタンをかけ直した自分に気付き、さらに笑った。

脱がすも愛。
着せるも愛。