イチキュッパ

部活の帰り、どあほうとスーパーだ。
先に帰ってもいいと言われたが、おれはどあほうと行くスーパーが好きだ。
ついていくと言ったら、迷惑そうに顔をしかめたので、 照れんな、と言ったら、はたかれた。

今までコンビニしか行ったことがなかったからか、初めてスーパーに行ったときは、目がちかちかした。
店ん中はやたらと白っぽくて明るいし、なんかさみーし、音楽も変だし。
何よりも物が多い。
物がいっぱいずらーっと並んでいて、何があるのかまったく把握できなかった。
どれを見ても同じに見えるし。
どあほうに言ったら、「ハコイリめ。」と言われた。
食えんのかそれ。
無言で返されて、その後、ちょっと口をきかなくなった。
冗談の通じねーサルだと思った。

今日は3回目だ。
ちょっと慣れてきたから、おれは、ヨユーがある。
スーパーで買い物をするどあほうの様子をとくと眺めてやることとした。
それにしても、190センチ弱の赤いぼーずの男が、スーパーに見事になじんでるぞ。
ちょっとカンドーだ。

どあほうが、ぶちぶち言いながらきゅうりを手に取った。
「たけえなぁ」
ふーん。きゅうり、198円は高いらしー。「雨降ったからなぁ・・・・・・」とか言ってる。 「きょう、降ったっけ?」
ときいたら、チラッと見られて無視された。おとなしくしとこう。先に帰されたらつまんねーからな。

「甘そうだなぁ」
トマトの色を見ながら、つぶやいてる。
「トマトは嫌いだ。」と、つぶやいたら、「オレの家で好き嫌いはゆるさねーぞ」と言いながらかごにいれた。 トマトは嫌いだが、どあほうのセリフはなんか嬉しかった。

「おひたし作るか。」
ほーれん草は好きだ、と言ったら、「これは、小松菜っつうんだよ。」と教えてくれた。今度は優しく言われた。緑色したはっぱは全部ほーれん草と思っていたので、 ちょっと驚いた。

「おめー・・・・・・今日はよくしゃべるな」
と言われて初めて、浮かれてる自分に気づいた。
「うるせー。」
今のは照れ隠しだ。

「おい、牛乳とってきてくれ」
牛乳の位置は前回学んだからな。わかる。
「4本な。」
オレとどあほう2本ずつで4本だ。
牛乳もいろいろあって大変だが、おれは知ってる。198円がベストだ。どあほうがそう言ってた。
魚を見ていたどあほうが持ってるかごに、注文どおり、4本を入れようとすると、
「キツネ、今日は何日だ。」
唐突に聞かれたので。
「・・・・・・たぶん、3日じゃね?」
「4日だよ。で、この牛乳の賞味期限は何日とかいてある。」
「・・・・・・しらねー。」
「ばか!ここだよここをみるんだよ。この牛乳の期限は5日だ!」
「・・・・・・」
知らなかった。

そしてどあほうはわざわざ、牛乳のコーナーまでおれを引っ張って戻って行き
「ったく!いいか、牛乳を選ぶときはなぁ・・・・・・」
と、しゃがんで、説明を始めた。
「こうやって奥のほうからとっていくんだ。ほれ、見てみろ。これが手前で、奥を。な? 奥のほうに新しい日付のもんがおいてあるんだよ。」
「・・・・・・」
「わかったか!」
「・・・・・・ああ。」
「・・・・・・てめーの家の冷蔵庫の中には、期限切れはねーだろーけどな。これくらいは知っておけよ。」
「テメーの家だってないだろ。」
「あ?」
「キゲンギレ。ぎゅーにゅー、いちんちで飲むじゃん。」
「まーそーだけどよー・・・・・・とにかく知っておくんだぞ。」
と念を押すようにいって立ち上がった。
ったくなーんにも知らないんだもんなぁこのキツネはよぉ~とか何とか言ってる。
事実だから、何もいえねー。
魚のコーナーにまた戻るどあほうを見て、オレに任せた意味がないと思い、ちょっと悲しくなった。
さっきまでの浮かれた気持ちがどっかにきえた。

だけど。
「菓子を買ってやるから好きなの選べ。」
と言われて、オレの気分はまた浮上した。
菓子は知ってる。
どあほうの好きな菓子をかごに入れた。
「おめーの好きなのを買え」
ぶっきらぼうに言いつつも、どあほうは喜んでいる。
おれは、好きな菓子なんて特にねーんだ。
どあほうが好きな菓子が、おれは好きなんだ。

「たくさん買っちまったなー。」
ふたりでビニールをふたつずつ持つ。

今日の晩飯は豪勢だぞーと言って、にかっとオレに笑った。
明日は、おめーの好きなめばるの煮付けを作ってやるかんな。嬉しいだろうそうだろうそうに決まってら、 と畳み掛けるように言ってくるので、ついていけず、とりあえず頷いておいた。

ホントはめばるなんて知らなかった。
好物なんかじゃなかった。
魚なんてどれも一緒だと思ってた。
でも、おめーがこの前作ってくれて、うまかったから、好きになったんだ。

別に、悲しいとは思ってねーけど、おれには、全部が一緒に見えるんだ。
どあほうに言われて、初めて知ったんだ。
全部が一緒に見えてたってことに。
どあほうは、そんなオレの「ぜんぶいっしょ」に「一番」をくれるんだ。

でも、そーゆーの、うまくいえねーから、どあほうにはいわねー。

だけど、

「おれは、どあほーと行くスーパーが好きだ」

これだけは言っておいた。

しばらく見つめられて、それから、ぎゅうっとされた。



2006年頃書きました。
たぶん2番目くらいに書いた思い出深いお話です。