しろくじちゅう

昼休み、トイレから戻ったら、赤い頭が見えた。
どあほうだ。
どあほうは、歩くとき背中をちょっとだけ丸める。
前にそう言ったら、おめーもじゃねー?と言われた。
ふぅーんとおもった。
自分のことはよくわからねー。
でもどあほーもオレの後ろ姿を見たことあんのかと思ったらなんかへんな気持ちになった。

そのままなんとなく、どあほうの後ろをついて歩く。

頭をぽりぽりかいている。
昨日、髪が伸びたと言っていた。

「伸ばすかどうか悩みどころだ。てめぇどう思う?」

どっちでもいいと言ったら怒ってめんどくせーことになるので、「どっちもよい」と言ってみた。
そうしたら、にかって笑った。
今度からそう言おうと思った。

食堂の前で立ち止まって、そのまま中に入っていった。
あの大食い。
いちんちに何回、食堂に行くんだ。
オレはメシは持ってきているし、その上、今日はもう食っちまった。
戻ろうと思ったら、宮城センパイと一緒に出てきた。
宮城センパイがちょっとだけ変な顔をしている。
ふたりで話があんのかもしれねー。
あの2人は、変な話をよくしてる。
でも手を振って別れてったから、違うと分かる。
それからきょろきょろして、また歩き出す。
誰か探してんのかもしれねぇけど。
またなんとなく、ついて歩く。

「ミッチー!」

三井センパイがいたことを知る。
どあほうが手を変な形にして、三井センパイの尻にさした。
尻を押さえながら三井センパイがどあほうを殴っている。
ちょーどあほー。
立ち止まって様子を眺める。
さるがふたり。
しばらく殴りあって、尻を蹴られながら、どあほうがまた歩き出した。
三井センパイがオレに気付いて手をあげてきた。
オレもちょびっと頭をさげる。
それからやっぱり、なんとなくついて歩く。

階段を上る。
距離をおいて、俺も上る。

アイツの足音と鼻歌が聴こえてきた。
たまに手すりで拍子をとっている。
あのうたは天才バスケットマンのうただ。

足音が止まった。

そっと見てみれば、踊り場んところで、窓から身を乗り出して空を眺めていた。
そんなにしたら、落っこちっぞ。

「まさにアッパレ!」

でっかい声で叫んで。

鼻歌混じえて、また上り始める。
やっぱへんなやつ。

俺もちょっとだけ窓から空を見上げてみる。
あいつみたいにからだを乗り出したりはしねーけど。

空が青かった。

空を見ていたら、上から話し声が聞こえてきた。
なんだ水戸だったんかと思う。
帰ろうとしたら、でも、水戸が降りてきた。

俺を見て、ちょっと目を丸くして、あれー?と言って、それから

「かくれんぼ?」

笑いながら言ってきた。
水戸の言うことはたまによくわからねー。

「早く見つかってやってよ」

ぽんと肩を叩かれて、ようやく分かる。
ちょっとだけ足をはやめて階段を上る。

一番上についたところで、ドアを開けるあいつの姿が目に入る。

「おい」

呼びかけたら、手を止めて、振り向いて。

「そこにおったんか」

そう言って、どあほうは、にかっと笑った。