ハロー、晴子ちゃん

体育館の方向から「---ッ!」と聞こえてきた。
そこら辺にいた帰宅途中の連中ほとんどが思わず立ち止まる、そんなすごい音だった。 いつかのイヤーな記憶が甦る。軽い笑いを伴って。
時間はないけど、なんとくなく寄りたくなったから、寄ってみた。
体育館なんて、花道がかかわりを持たなけりゃ縁なんて持つはずのない場所だった。 場所だけじゃない、空気も人も気持ちも、いろいろ。あそこにはいろんなものがあるとおもう。
中をひょいとのぞいてみれば、花道が三井さんに追いかけられている真っ最中で、 体育館の中をグルグルグルグルとふたりして追いかけっこだ。 180センチ以上のヤロー同士の追いかけっこはなかなかの迫力で、ドドドドという音が館内に響き渡っている。
逃げる花道はケラケラと笑っていて、あれは本当にご機嫌の時の顔。対する三井さんときたら、すげえ形相だな。なんか、変なかっこうして、あれ、どうしたんだ?

「あ、洋平くん!ああ、あれ?うふ。なんていうのかなぁ、カンチョウ?あれ、したの、桜木君が。 うふふ、ね、三井サンたら、お尻押さえて! 桜木君、右、右、右に気をつけて~!キャー!つかまっちゃうわぁ!あ、手、グウで殴っちゃだめですよぉ!パアで、パアで!」

可愛い顔して。言うね、この子も。
花道のあのでかい手は指も当然長いわけで、 あんな指にカンチョウされた日にはどんなことになるのか・・ううう、自分の尻まで痛くなってきた。 痛かったろうなぁ・・三井さん。さっきの音は、なるほど三井さんから発せらた音だったんだな。

「桜木君って面白いよね!見てるだけでこっちまで元気になっちゃう。」

・・・・そう、なのかもしれないけど。
目の前で繰り広げられている光景への感想としてはあまりにのんきな晴子ちゃんのセリフ。 それを聞いたんだろう通りすがりのヤスさんが、なんともしょっぱい顔で晴子ちゃんを見たあと、オレを見ながら、尻をおさえるフリをした。

ははっ!

思わず声を立てて笑ってしまって。
晴子ちゃんが不思議そうな顔をしてオレを見てくる。
なんでも、ないんだよ。

おっとと。

「お、ルカワ。花道に帰るって言っといて。」
「ぜってー、いわねー」
「ははは、へそまがり。じゃーね、晴子ちゃん」
「うん、バイトがんばってね!」

驚くオレに、「ようへー君のスケジュールだって知ってるわよぉ!わたしマネージャーよ?」と言ってきた。 そしてもう一度、「がんばってね」と言った。

きみがずっと笑顔でありますように、がらにもなくそう願った。

晴子ちゃんの天然を何個見つけてくれましたか。

2007/12/04