近道しようと裏道を歩いていたら、前につるんだことのあるやつらに出会っちまって、 こりゃあちとめんどくさいことになったと思った。 あーあ、なーんでこんな道を通ってしまったんだろうね、オレは。 近道のつもりが結局、遠回りじゃねえか。あーあ・・
つるんだことがあると言ってもちょびっとだし、鉄男たちに会うのとはわけがちがう。
あいつら、特に鉄男。あいつはちょっともう別格だ。
話さなくてもわかるというか、話しても分からないというか、話したところで何になるんだというか。
誰かに似てるなー・・・ああ、桜木か。
あの騒動の後、鉄男たちとはわりとあっさりサヨナラした。 だからかな、いつかまたどっかでばったり出会ったりしたら、それでもまたいっしょに遊べるんじゃねえかなあ、なんておもってる。 なんかそういう信頼みたいなんがあいつらにはある。 あんなにメーワクかけたのになあ。あいつらは、完全に自分のためだけに生きてたからな。いつまでも変な執着しねえんだよな。 その辺が、違ってんだろうな、その辺のヤツらとは。 あんなアマちゃんだったオレとよく付き合ってたもんだよなぁ。 世の中、あんな物分りのいいヤツばっかじゃねえんだよなあ。 のんきに回想してる場合じゃねーんだよなあ。
さて、どうするか。
昔とは様子が変わったオレを見るなり、目の色が明らかに変わったこの連中。 「一杯やらね？」と誘われた。何に誘っているんだか。 からんでるわけじゃないけど、答え次第では、からんでくるのは明白だ。
ここで一杯付き合えば、あっさり別れられんのかな。
でもなぁ、おれ、高校バスケ部員だし。
酒飲んだら、シャレんならんしなぁ。
ああ、ただ殴られるというのもありか。
反撃しないでいられる自信が全然ねーぞ。
喧嘩みたいな面倒事は御法度だし。
もう二度とあんなばかやりたかねえし。
いやー、今更ながらに宮城にゃあんとき悪いことしたなぁ。明日ラーメンおごっちゃろう。
「こねえの？三井」
「ん？んー・・」
はあ、酒しかねえのかねぇ。
はあ・・・・・酒かねぇ。
いやいや、オレよ、ただ殴られるっていう選択肢があるはずだぞ。
どうしても反撃しないでいられないのか？
・・覚悟がきまらねえなぁ。
はぁ・・・・
「三井さんじゃないっすかあ」
なめた声をだしやがって。
振り向かなくても誰だかわかる。
水戸、お前だろ？
そこでどうして、また、お前なの。
これが例えば桜木だったら、ほんとに心から感謝するよ。
これが例えば流川だったら、偶然の神様に感謝するね。
でもね、この場合。水戸の場合。
なんでお前なのと逆に恨むね。
こんな場面、お前に一番、見られたくなかった。
あん時だけで、もう充分持っていかれた気になってんのに。
これ以上、いったい何を持って行くんだ。
「なんだよ、テメーは」
「おれ？この人の後輩です」
横に並んだ水戸を見る。こいつオレより背が低かったんかと今更ながらに認識する。微笑みながら軽口叩いているくせに、目が全然笑っていない。敬語は使っているくせに、態度が全くそれにあってない。 これらすべてのギャップが、いまのこいつの迫力につながっている。ひと一人殺せそうなくらい怖いよ、お前。
場数を相当、踏んでるんだろうな。あーもー、なんでこいつが頼もしく見えてんだ。
水戸が発する異様なオーラには、さすがに連中もひるむ。そうだぞ、おまえらの目はフシ穴じゃない、良かったな。 水戸はつえーぞ。やめとけやめとけ。
相手が気圧されているのを確認した水戸は「さあセンパイ、さぁさぁさぁさぁ」とふざけたセリフを吐きながら表通りまでオレを引っ張っていった。見事な不戦勝だった。
人通りが多くなったところで腕を離され、「じゃあね」とあっさり言ってきて。 待て、なんか言わせろと、オレはなんかしらんがずいぶん焦って、「オレはなにも」だなんて、言い訳めいたことを言っちまってさ。 かっこわる。誤解されたくなかった、というよりは、あの時の一瞬の自分の甘さを隠したかったんだ。やっぱかっこわる。
なのに水戸は「わかってますよ」だなんて言葉を重ねてきて、オレのかっこわるさの全部をなかったことにしやがった。
そこまでやってくれなんて頼んでねえよ。
今度は目が笑ってやがる。
オレは、別に、そんな顔されたいんじゃねーよ。
「わかってねえよ、その顔は」
「オレの顔がどう見えるかは、三井さん、アンタ次第だよ。」
「んだよ、それ」
「オレだって、そうなんでも分かってるってワケじゃないんだよ。」
ウソつきめ。
「オトコマエがあんなとこフラフラしてたらだめだよ」そう言って、ヤツは人ごみの中に消えていった。
これが例えば宮城だったら、ラーメン一杯でチャラにしてもらって。
これが例えば赤木だったら木暮だったら彩子だったら、あんな道歩いてしまってホントすんませんでしたと、ただひたすらに謝る。
でもこれが水戸な場合、この場合。
オレはいったいどうすりゃいいんだろね。
心を持っていかれたミッチー
2007/11/16