そこを動くな

「そこを動くな」

寝ているもんだとばかり思ってた三井さんがそう言った。
教室で昼飯食おうと花道見たら、のっそり予約客がやってきた。仲直りしたばっかのふたりだ、邪魔をするのもしのびねえってことで、 オレ達は気をきかせて、セミの声がみんみんうるさいこんな時期であるけれど、屋上で飯を食うことにした。
屋上に着いたらいたのがこの人だった。寝転んでお昼寝中。
「おーミッチー」と呼びかけたら、からだは横たわらせたまま顔だけこっちに向け、オレらの姿を確認した途端いやそうに顔をしかめ、そしてまたねた。

「お返事がないな」と、高宮。
今日はあまり機嫌がよくないらしい。

三井さん。2コ上の、花道のセンパイ。
こいつらには友だち。
オレには・・・たまにちょっと右手が疼く微妙な、ヒト。

メシも食ったし、ミッチーはつまんないし、ここは暑いし、さて戻ろうかと言った矢先だった。

「そこを動くな」
だ。

「なんでだ」と、大楠が言っている。

それには答えず、

「いいから動くんじゃねえよ」

と言ってる三井さん。いやー、横暴ですねぇ。

「動かせろよミッチー」
「テメーらにまでミッチー言われる筋合いはねえよ」

やっと上半身を起こす。
本日初めて見たトド状態でない三井さん。
なんかこのヒト無意味にハデなヒトなんだよな。

「ミッチーミッチーミッチー」

はしゃぐ高宮。
高宮は、向かうところ敵なしだ。

「オマエら、ほんと桜木の仲間な。類友な。類は友を呼ぶのな。そっくり。むかつく感じがもうそっくり。 だぁっ!動くんじゃねーって言ってるだろーが!特に、そこの・・・太いのが!動くなっ!」
「太いっていうなよぉ」
「カ・カ・カ・カ・カッ!」

変な笑い方。

「動くぞ~」
「動くなっ!」

「暑いんだよ・・」といって、またゴロンとトドになる。

「日よけ?」
「おれらひよけ?」
「あの人、ナニサマ?」
「おれさま」

背中を向けたまま、言って来る。

「うわー。どっちが花道なんだよな」
「なー」
「加えて、金持ちだ。文句あっか。」
「ちっ、やなかんじ。ねーよねーよ。金持ちなミッチーサマに文句はございませんよ。」

金で思い出した。
昨日のパチンコのオレ達の散々で、残念なあの結果。しばし、沈黙がオレたちを襲う。

「・・なんか話せ」
「はぁ?アンタ寝るんだろ!?」

大楠が叫ぶ。
沈黙を語る背中。
いやいや、大楠。このヒト、わざわざこんなそばで眠るくらいだもんよ。

「子守唄が欲しいんだって」
「ミッチーは、お子様でもあるんだな」
「やかましい。桜木いじめるぞ。」

やっぱ子どもだ。

「ったく、何の修行だよ。」
「高宮、よかったな。痩せるぞ」
「痩せるっつうか、溶けちまうよ~」
「高宮溶けたら、バターになんのかな。」
「ウハハッ」

時おり笑い声があるので、三井さんは起きているらしいことがわかる。
三井さんの反応になんか嬉しくなる俺たちだった。
それから昼休憩が終わるまで、クソ暑いというのに、日光を一身に浴びながら話し続けた。
すべては、オレサマで金持ちでお子様な三井さんのために。

ミッチーを囲む軍団が描きたかった。

2007/11/10