いちご

昨日コンビニに行ったら水戸がいた。
足と足でカゴをはさんでなんかを立ち読みしていた。 エロ本か、良いネタ掴んだと背後にこっそり忍び寄って覗いて見たら、マンガだった。 つまんねぇヤツだ。
しかしかわりに、カゴの中に面白いものを見つけた。
そしてひとつの疑惑が生まれた。 

確かめるべく、今朝オレはコンビニに立ち寄り大量の菓子を買い込み、そして昼休みである今現在、 持っていていやになるほどの量の菓子を抱えて屋上へと向かっている。
オレの推理が正しければ、水戸はいちご味が好きだ。
しかも、けっこう本気で好きだ。

「おー、ミッチー!」

今日はそこんとこな、その変な呼び方な、許してやる。
やかましいあの桜木はいないが、なぜか流川がいた。
こいつら、この無愛想でナマイキな流川まで取り込んでしまったのか。なかなか侮れん。

「ミッチーいいモンもってンじゃんか」

丸いのは目ざとい。オレが抱えてる袋からはみ出しているものを、もう見つけやがった。

「オマエラにやろうと思ってな」

ギョッとした目でいっせいに俺を見てきた。

「俺、傘もってきてねえんだけど」

ヒゲのヤツがそういった。

「んなこと言ってるとやらねーぞ」

ばらーっとコンクリの上に菓子を広げる。
おおー、っと感嘆の声が響く。広げてみるとなかなか壮観だ。 いろんな菓子を買ってみたんだ。ところどころに水戸への罠を仕掛けてな。

「さあ、好きなもんをとれ」
「ミッチー、マジでこわいって!何があったんだよ!」
「一個か?ふたつとってもいいか?」
「かまわねえが、ただし、水戸からえらべ」
「へ?」
「なんでだ?」
「なんでじゃねえの。スポンサーってのは注文をつけるモンなんだよ。いいから水戸、選べ」

言われた水戸は困惑いっぱいの顔で俺を見て、「オレ最後でいいっすよ」と言った。

「いいや、だめだ。水戸から選ぶんだ。じゃないとこの話はなかったことにする」
「洋平選べ!早く選べ!」
「ミッチー、マジでなんか悪いもん食ったんじゃねえの?」
「水戸が好きなんスか」
「罠としか思えねえ」
「怖いよ」
「いいから!選べって!洋平!!」

さきほどから各々が好き勝手なこと言う中で、丸いのだけが唯一、本題からそれていない。 丸いのの必死の形相に水戸が圧倒されて「えー・・」と言って選び出した。丸いヤツ、ナイスアシストだ。
「まいったなぁ」と言っているが、オレの推理が正しければ、お前が迷うはずがないぞ水戸。 お前はあの菓子をとるはずだ。
水戸の目がとらえた。
そうだ、それだ!その菓子だ。
さぁ、とれ!

「じゃ、おれ、これ…かな」

やはり。
いちご味。
そして、水戸が手にしようとした瞬間、

「またせたな!」

オレは別に待っちゃいない桜木が現れた。

「あ、ミッチーも一緒か。 さては、ミッチー三年にのけものにされてるな?君も相当無茶をやったからねえ・・」

べらべらべらべらムカつくセリフを喋りながら近寄ってくる。ああ、あの口を縫ってやりてえ!

「おー大量の菓子!どうしたんだ、これ。」
「それがよぉ、全部ミッチーのおごりだっつうんだよ」
「なぬう!?…ああ、なるほど」

なんだそのあわれみの目は。なに考えたんだ?何を考えたにしろ、ろくなことじゃねえぞあの顔は。

「あー、洋平!おれ、それがいい!とってくれ」

そう言って、水戸の菓子を指差すもんだから、

「それは水戸のだ!」

思わず叫んじまった。

「いいっすよ。ほら花道」
「やった。イチゴ味~」
「ばかやろ!桜木!それは水戸のだ!」
「あ?」

もうべりべりと箱をあけ始めた。
異様に必死なオレの様子に皆が不思議そうな顔をして見てくる。オレだって自分が不思議だ。

「あ、じゃねえ!それは水戸のだ!戻せばか!」
「いや、オレはいいよ三井さん、花道にやって?」

そして、桜木に「花道、食べな」といった。

オレは傷ついた。と言うより悲しくなった。
テメーはイチゴ味が好きなんだろう。 だってオレはほんとうに昨日見たんだ、かごの中にイカと一緒に入っていたイチゴ味の菓子を。 似合わなさすぎてインパクト大だった。 さらには、イチゴ風味の歯磨き粉まで入っていたんだ。歯磨き粉までイチゴ味なんて、オレはびっくりしたぞ。 よほど好きなんだろうなと驚き通り越して感動までしたんだ。 寝る前なんか、テメエがいちご味の菓子食って、いちご味の歯磨き粉で歯を磨くところ想像して、 ひとりでにやついてたくらいだ。それくらい感動したんだ。テメエのいちご好きに。
なのに、なんでたやすく、他のやつにやっちまうんだ。
なんで自分の好きなもんをいともたやすく。

「三井さん?」
「ミッチー?」
「ミッチー、具合いがわりいんか。」
「やはりなんかの前兆だったんかな・・明らかに、奇行だったもんな」
「ミッチー、どうしたんだ」

オレの悲しみがオーラとなって出てしまったのだろうか。連中が揃って心配し始めた。
ポンと肩を叩かれた。
見やれば、流川が菓子を差し出してきた。慰めようとしてるのか?俺が持って来た菓子で?とんちんかんなやつだ。

「もういいよ、くえよ。じゃあな。」

「三井さん」

水戸が呼んでいる。
ばかやろう、しらねえよ。
てめえなんかしらねえよ。

別にいちごじゃなくても良かったんだけど。 

ものわかり良すぎる人って、けっこう残酷だよね、っていう話。
自己主張しない人って、優しいけど・・人によっては傷つくよね、っていう話。
たかが菓子、されど菓子。
続編を考えているんだけど、どうやろうかなぁ、って感じです。

ところで、ルカワは別に桜木軍団に取り込まれたわけではありません。
2007/11/21